本

『昭和を生きた道具たち』

ホンとの本

『昭和を生きた道具たち』
イラスト 中林啓治
文 岩井宏實
河出書房新社
\1260
2005.4

 懐かしい香りのする本である。私も、昭和という時代をそう長く経験した訳ではないが、我が家に、あるいは祖父母の家に、それなりに古いものがあった。石炭でふろを沸かしていた頃があったし、洗濯板というものもあった。よく熱を出した私には、水枕や氷嚢が当てられたし、往診もしてもらっていた。竹の皮に包まれたおにぎりの弁当もあったと思う。食卓には蠅帳と呼ばれる折りたたみ傘のような網が普通に被せられていた。
 宮崎に旅行に行って知人の家に泊めてもらったときには、五右衛門風呂に入ったが、これはさすがに珍しかった。
 道具は、人の生活や考え方を表している。プログラムが勝手にやってしまう処理とは違い、人の手の温もりがどこかに感じられるような気がする。それは、どこか錯覚かもしれないという思いさえ混じらせながらも、人はついノスタルジーに抱かれたくなるものなのだ。
 著者は、ただ懐かしがるだけでなく、これを継承・発展させたいと述べている。これは本筋ではないかもしれないが、環境問題が意識される中で、こうした道具は、また一つの方向性を私たちに見つけさせてくれるものとなる可能性もある。健康志向にも、ヒントを与えることがあるだろう。
 見失われつつあり、さらに子どもたちにもその影響が悪しく現れているとも言われる、人と人とのつながり、コミュニケーションといった事柄についても、ここから何かが見つかるかもしれない。味のあるイラストは、道具をたんに「モノ」として描くのではなく、人の生活の中での連関の中で、生き生きと描いてくれている。
 温かい本だ。




Takapan
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