本

『昭和少年SF大図鑑』

ホンとの本

『昭和少年SF大図鑑』
堀江あき子編
河出書房新社
\1680
2009.8

 サブタイトルには、「昭和20〜40年代 僕らの未来予想図」とある。かつて、子どもたちが希望に胸を膨らませた未来の図式がここにある。
 懐かしい絵である。タッチそのものが、時代を現している。ある意味で心がこもっていたのかもしれない。子どもたちは、その向こうに無限の未来を夢見ていた。
 当初は、どうしてもアメリカの影響が大きかった。また、戦争の兵器を連想させるものもベースにあった。ただ、それが空想的な乗り物からやがて宇宙への眼差しにつながり、コンピュータ制御を基本とし、ロボットが人間を助けるという図式が多いとも言える。
 ある意味で、それは現代に叶えられたとも言える。こうした夢に動かされた子どもたちが、今や開発者として、そういう工学を導いてきたのである。
 小松崎茂や中島章作といった挿絵画家の作品も並べられている。基本的にこの本は、当時の図柄を写真として並べているのである。そこに、妙な理屈はいらない。主観的な分析も必要ない。ただ現物がある。これだ、というそのものがふんだんに掲載されて示されている。
 一部白黒頁になっているのが残念だが、最後にはSF小説というレベルまでコレクションしてあるものが紹介され、大人が懐かしむに十分堪えるものとなっている。
 全体的に、殊更に評論したり分析したりというムードを避け、淡々と事実を羅列する編集となっている。資料を提供して、その後のことは読者が判断せよということなのかもしれない。また、それはよい姿勢であろうかと思う。この本を基に、私たちは思い出に浸るもよいし、文明論や教育論に花を咲かせるがよいだろう。私たちの精神の行く末についても、少しばかり思いを寄せながら。
 ただ、そればかりでも淡泊過ぎる。いくつか掲載されている個人的なコラムが味を添える。共感するも反発するも、そこにある息吹の感じられる人間の言葉に、自分と同じようにその時代を生きた人の心に触れるのだ。
 とはいえ、私自身、この本にあるほどにまで旧い世代ではない故に、完全に時代を共有しているとは言えないわけで、私よりさらに上の世代にとって、たまらない本となっているのであろう。つまり、昭和三十年代の子どもというのが、それである。




Takapan
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