本

『美味しい食事の罠』

ホンとの本

『美味しい食事の罠』
幕内秀夫
宝島社新書
\735
2007.9

 サブタイトルに「砂糖漬け、油脂まみれにされた日本人」とあるが、これがこの本のすべてを物語っていると思われる。一冊の中に、書かれてあることは、基本的にこれ一つである。付け加えることがあるとすれば、米食が最善である、ということくらいである。
 このことの立証のために、様々な角度から資料を集め、主張を滔々と説くことが続けられているという具合である。
 そのわりには、お酒が好きな筆者なのだろうか、居酒屋の選び方について、ひじょうにマニアックなほどに詳しく説明がなされているなど、微笑ましい部分がある。あまり堅苦しく考えずに、楽しく読んだらいいのではないか、という気もする。みのもんたに命を預ける人々の話や、やせるためなら死んでもいい女性の心理など、印象に残るフレーズもある。表現など、けっこう楽しいのである。
 おそらく、各地を講演するうちに、聴衆の笑わせ所などを会得なさっているせいだろうと思う。資料もふんだんに取り入れるが、それらに振り回されているというふうでもなく、うまく使いこなしているように見える。
 どうにも缶コーヒーが気になるのか、相性が合わないのか、サラリーマンが夕方に飲むことに決めている缶コーヒーがいかに体に悪いか、を繰り返し繰り返し諭すのであるが、本当に誰もが夜六時かそこらに、夕食をとらずに缶コーヒーを呷っているのだろうか。私は世間のサラリーマンとは違うリズムで生活しているので、その辺りの常識というのがどうにも実感できないのであるが、それほど缶コーヒーが売れているという姿が、よく分からないのである。
 昨今の食生活に、油脂が多いのはよく分かった。ガンの発生部位の変化や、沖縄の平均余命の変化など、食生活の変化が健康にもたらす影響は、たしかに計り知れない。一時、平均寿命が若い世代は40歳しかない、などというセンセーショナルな警告もなされた。
 たしかに、伝統食が壊滅的な状況にあることは否めない。だが、そこそこに、伝統食は生き残っているのではないか、と私は感じている。一部、それから全く隔絶されたような生活を続けているグループがあるのは事実だが、多くの平凡な家庭では、なんとか米食に煮物、魚中心といった食生活は、たしかに送られている。我が家でも、スナック菓子はめったに口にすることがないという子どもたちであるから、マクドのポテトなど何ヶ月かに一度のお楽しみという感じである。袋入りポテトチップスなど、年に一度か二度しか開かれないレアものなのである。
 塩分を気にするよりは、油脂を気にしろ、という筆者の言うことはもっともである。そこで、分かりやすく、米食でいいんだ、と叫んでいるが、米だけでも無理があったのは確かである。かつての脚気などの問題も、無視することはできないのである。牛乳は牛の乳なのだから人間が飲むのはおかしい、とまで言う必要はないだろうと思う。そこでは、欠乏しがちなものが補えることは十分にある。乳製品を排斥し、オジサンの居酒屋を歓迎する理由は、あまり説得力がないかもしれない。
 そういうわけで、私たちも、この本に命を預ける必要はないかと思うが、やはり日々の脂まみれについては、ブレーキをかけたほうか賢明――懸命?――であろうかと思うのは、私も賛成である。ドレッシングまみれのサラダというのも、おっしゃる通りだと思う。私もコーヒーには砂糖は一切入れないが、それは健康のため云々というよりも、ただ嗜好がそうなのだ。それが、本能的にそうしているのかどうかは、あまり分からないけれども。




Takapan
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