本

『イラスト版 からだに障害のある人へのサポート』

ホンとの本

『イラスト版 からだに障害のある人へのサポート』
横藤雅人編
北海道生活科・総合的な学習教育連盟ネット研究会著
合同出版
\1680
2010.3

 車椅子で、転んだらどうするんですか。オシッコは、どうするんですか。
 小学校にゲストとして招かれたゲストに向けられた、子どもたちの質問である。大人は、こんなことは訊かないだろう。だが、子どもたちにとっては、重大な関心事である。そして、これはごく日常のことであり、障害を負った方にとり当然必要なことである。
 巻末の「あとがきにかえて」に記されたこのことが、この本の本質を象徴的にまとめている。そして、様々な立場の人々を理解し共に社会生活を送る中で、具体的にどのように接していけばよいのか、それこそ子どもに教えるという仕方で、丁寧に示してくれる。どうしてそのようにするのか、理由を添えて、相手の立場や境遇を理解することをも含め、学ばせてくれる。
 結論的に言うと、これほどにシンプルに、必要なことを、必要なイラストと言葉で伝えてくれる本に、私は出会ったことがない。
 サブタイトル的に「子どもとマスターする40のボランティア」とある。つまり、これは大人向けの本なのだ。しかし、説明はどう見ても子どもに対してである。それでいて、振り仮名のない言葉の中には、子どもには読みづらいものも正直ある。ということは、この本は、一般に大人に向けて、誰でも必ず理解できるようにつくられた、と考えるほかない。読んだ大人が、親が、教師が、子どもにこれを伝える役目を負っている、ということだ。
 分野は、手足の障害を負った人、視覚に、聴覚や発音に、そしてお年寄りに、という項目で、それぞれに具体的に何がどう困るのか、何をしてもらえると助かるのか、どういう性質を理解してもらうとよいのか、ひとつひとつ分かりやすく挙げられている。
 もちろん、障害のある方々も、ひとりひとり個性がある。ここに記されたことが逆に気に障る、というような方もいらっしゃることだろう。すべての人に対して一律にこれをマニュアルとして実行すれば万全だなどと、機械相手のように考えることはできない。しかし、概ね、その障害をもたない人が気づかないことに気づかせてくれるという点では、申し分のない本であると感じる。そうか、そんな気持ちなのだ、と気づくだけで、いくらかでも理解することにつながるからである。
 そのために、たとえば聴覚障害者を理解する実験として、テレビの音を消して見てみるとか、ヘッドホンで音楽を聞きながら外を歩いてみるとどんな不便や危険があるか、考えさせてみるとかいう説明もある。実際に後者の実験をすると危険かもしれないが、逆にそういう危険の中を生活しなければならない人々の立場を、むしろ尊敬をもって見ることができるかもしれない。
 お節介すぎるくらいの姿勢でよいかもしれない。そういう意見も書いてある。サポートすることをためらわせないための一つの方便である。きっとできることがあるし、その人が何を必要としているのか、理解できるようになりたい、そういう姿勢が貫かれている。ほんとうに、具体的な行動のために、理解のために、これほど分かりやすく適切な説明がしてある本は少ないかもしれないと思える。
 そこで、だからこそ、私の気づいた点を一つ、挙げたい。それは、タイトルにもあるが、「サポート」という概念だ。「障害」という表現の「害」をどうするか、近年いろいろ議論されている。私はこの本が「障害」としきりに書くことを、それ単独では悪いことだとは思わないし、まだこれからもその点は社会的に意見の一致を目指すようにしていけたらと思う。だが、確かにこの本は、肢体や視覚、聴覚などが「害」であるからそれを支え、助けなければならない、という視点が強すぎるかもしれない、と感じる。私は今、ろう者との交わりがある。そこで気づかされるのは、ろう者が決してたんにマイナスを背負っているのではないということだ。もしかすると、音が聞こえてしまう私たちのほうが、違う能力をもってしまったのではないか──たとえば、世の中にエスパーなる者がいるとして、特別な能力をもったとして悩むかのように──、とさえ思うことがある。そこには豊かな文化があり、たんに数の多い聴者の規準でつくられた社会に適応しにくい、というだけのことのような気がしてならないのである。害を受けて気の毒だ、ではなく、全く別の文化の世界や理解がある、という視点が基調にあって然るべきだと捉えている。
 そこに近づこうとするための方策が効果的に説かれている本であることは確かだ。だが、どこまでも「助ける」という視点でしかないように見えるところが、私にとっては気になるところなのである。それは、「〜してあげる」という精神に貫かれていることに、ほかならないからである。




Takapan
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