『中学数学で磨く数学センス』
花木良
講談社ブルーバックス
\1100+
2024.3.
科学に関する数々の良い本を出しているブルーバックスだが、「中学数学」に絞ると、読者層は拡がるだろうか。むしろ高度な数学をご存じの方からすれば、低く見られる可能性があるかもしれない。
確かに、入口の垣根は低い。最初は数論だが、「九九表」から入る。小学2年生なら唱えられるようになる、九九である。しかし、それを段毎に注目するとか、それらの数字の並び方の何らかの規則を見出そうとする営みとか、さらに表の数字の和について考えるなど、殆ど誰もやったことがないようなことに挑んでゆく。
著者は「はじめに」の初めで、「数学的なセンス」とはなんでしょうか、という問いかけを掲げている。そして、それは計算力ではないことを告げ、何らかの能力であることを示唆する。そして、それは中学数学の中にちゃんと詰まっているのだ、と言っている。一つのことで満足せず、問いが深まること、新たな疑問に気づくこと、それが大切なセンスなのだ、ということのようである。数学の問題は、使うほうに傾いてしまい、このような疑問のために時間を費やすことができなくなっている。これは「もったいない」ことである、という。
だから、九九表からさらなる性質を探すということは、中学校ではやらないことである。それは次の「素数」についても言える。素数くらいなら、多くの大人も楽勝だと思うだろう。ところが、だんだん怪しくなる。そこまでするか、というような操作をして、新たな光を投げかけるのだ。素数は、謎が多い。最大の素数を定めることはできない、ということは分かっているが、素数の並ぶ法則については未知である。しかし、推定を含め、素数について見当づけられていることは、いくらかある。本書は、それへの入門書ともなっている。
平方数の下の方の数の並び方になど、普通注目するだろうか。そこに何か法則めいたものはないだろうか。著者はそれを探りに向かう。きっちりと、様々なケースを検証し、そこに数字をたくさん並べているが、目がくらむようなそれらの数字も、なんだか愛らしいもののように見えてくるから不思議である。
もちろん、そうなると、今度は2乗に留まらず、3乗やら4乗やらはどうなるか、という問いかけがなされる。この、ある種のしつこさが、魅力であると言えるだろうか。
続いて、三平方の定理という、中学3年生必修の定理が、フェルマーの最終定理へつながるのは、分からないでもないが、オイラーの予想など、未解決の問題にまで進むというのも、すごい。もちろんフェルマーの定理ですら、中学生に理解できるような証明ではないのであるが、これは世界的に有名になったニュースを、私たちは知っている。
この章のテーマは、「数」を「図形」でとらえるセンスを磨く、となっている。そして最終章では、「図形」に着目する。中一で取り上げる「正多面体」から、「正」ではない多面体を多数紹介するようになる。最後には「平面の敷き詰め問題」へ至り、もうこれは芸術なのかと思わせるような魅力を伝えてくれる。
中学生でも手に取りやすい参考文献も並び、なにより、用語索引が最後に控えているのがうれしい。
本書は、問題を出してその解答を示そうとするものではない。数学、即ち問題と解答、という既定路線しか頭にない人は、やはりもう少し軟らかくするとよいだろう。何よりも「面白い」と思えるような心、そして問題の答えを教えようか、と迫られても、「教えないで」と叫ぶような気持ちさえあれば、数学は楽しめるのである。その「楽しむ」心を、読者は読者なりに見つけ出すようにすればよいのではないか。
数学の分からない者は、そんな慰めを、自分自身に向けてみるのが精一杯であった。

た
か
ぱ
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