本

『超ひも理論をパパに習ってみた』

ホンとの本

『超ひも理論をパパに習ってみた』
橋本幸二
講談社
\1500+
2015.2.

 表紙のちょっと軽いイラストに惹かれて読み始めると、実に濃い。主人公は女子高生。その父親が物理学者という設定で物語は進んでいく。だが、これは果たして「物語」なのであろうか。小説ではない。つまりは、物理学の解説書なのだ。親しみやすく物語仕立てにしてあるが、紛れもなく、物理の解説本である。
 サブタイトルに「天才物理学者・浪速阪教授の70分講義」とある。娘に、一日10分ずつ、一週間に渡り物理学について解説をする約束をしたというストーリーである。事は、女子高生の、友だちに言われた「異次元」という言葉に始まる。実はそれはパパの専門分野であったのだ。そこで、そもそも次元とは何か、という辺りから説き明かされていくのである。そんな中、父親の研究が他の研究者の発表によりおじゃんになる危機が生じる。そこで話は、物理学の内容だけでなく、学会や研究の実態ということの紹介に移るということも起こる。
 こうして、本書は、物理学の解説とともに、物理学の学問の世界の紹介ともなっている。これをいくら力説しても伝わらないか、あるいは他人事で終わりそうなところを、女子高生を交えた会話の中で展開することにより親しみが増してくるから不思議だ。もちろん、内容は実に最先端のものであるし、各章の短いまとめに加えて、「おまけ」のコラムは実にハードだ。素人には分からない。だが、あくまでも設定は、学校で物理学を学んでいる女子高生に語りかけるというものであるから、口調といい、説明の仕方といい、本編はソフトである。
 手書きのラフなイラストもまた味がある。物理学者が黒板になにげなく書くような、まさに普段通りの図なのである。細かな数式の解説はないが、数式は出してくる。それは、いかにそれがシンプルであるかということの証しにもなる。また、ぶっちゃけた言い方をしているうちに、原理原則を当てはめるこの女子高生の考え方が、物理学的であると父親に褒められるあたりも、都合が良いといえばそれまでだが、確かに物理の精神を紹介するよい機会にもなっている。
 異次元という、SFにしても、またなにげない日常の中でも誰もが口にしておかしくないような言葉に秘められた物理学的な深い意味を、陽子の研究からクォークへの解決の可能性、ノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎氏を登場させて、なおかつ湯川秀樹なり朝永振一郎なり、やはりノーベル物理学賞を受賞した人々の業績が何であったのかを、さりげなく説明する味な構成にもなっている。そういうわけで、最後には超ひも理論に至り、物理学の今が何をやっており、何を目指しているのかというところを、実に巧みに説き明かしてくれる。喩えも見事だが、真っ向からの解説も、大したものである。
 そもそも難しいことを簡単に説明するというのが、一番難しいことであるから、この本はそれにチャレンジしているともいえる。
 私は中学生のときに、この宇宙の原理に関心をもった。当時は超ひも理論というわけにはゆかなかったが、素粒子からクォークへという時代であり、意味が分からないままにも、自分の関心を満たして、あるいはそれ以上に溢れさせてくれる知識として、好きだった。それでもこの本に書いてあることをとことんは理解できないが、確かに専門用語や詳しい観測を述べまくるというのではなく、その研究の意味であるとか、どうしてその研究が大切なのかいう背景などを明らかにしてくれているのは、いくらかでも読みやすかったと言える。
 期待するよりはハードかもしれないが、物理学とはどういうことか垣間見るためには、実に適切な入門書である。読書がよい刺激になるかもしれない。




Takapan
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