本

『すごいジャズには理由がある』

ホンとの本

『すごいジャズには理由がある』
岡田暁生+フィリップ・ストレンジ
アルテスパブリッシング
\1800+
2014.5.

 音楽教育に携わる両者の対談形式で本は進む。「音楽学者とジャズピアニストの対話」であるから、一人がグレン・ミラー・オーケストラの一員であったということも、加味すべきだろう。
 テーマは「すごさ」。だから、ミュージシャンの生い立ちや社会的背景などについての蘊蓄を語るというのが目的ではない。ジャズの歴史を辿り説明しようとするものでもない。「音楽そのもの」が的である。だから、これは実際に演奏する者でなければ、おそらく殆ど内容にはついていけない。コード進行や音の構成と変化など、音楽理論そのものが派手に展開する。
 いわば、ジャズのマニアが、音の詳細に至るまで、知識の限りを尽くして語り合っているようなものである。
 だが、もちろん歴史や背景について、触れないわけにはゆかない。いったいなにが「すごい」のか、音楽的理由を告げたいのではあるが、結局人間味溢れる解説になっているように思う。「理由」というタイトルには、カタカナで「ワケ」とルビが振ってある。なぜその音であることが「すごい」のか、言葉で語り尽くせないもどかしさがあるものの、通なる二人が、納得のいくまで語り合うというその話を、脇で聞いているのは、決して退屈なことではない。ミュージシャンの人生の物語を愉しむことが十分できるだろうと思われる。
 だから、その「すごい」人物を絞り、そこに光を当てながら、他の面々も今回は助演者として登場させるような形にして、関心が分散しないようになっている。
 その「すごい」人物というのは、アート・テイタム、チャーリー・パーカー、マイルズ・デイヴィス、オーネット・コールマン、ジョン・コルトレーン、ピル・エヴァンスの6人である。モダン・ジャズからの流れではあるだろうし、この取り上げ方についてはいろいろ意見もあるかもしれないが、あくまでもモダンな音楽の内容そのものを取り上げるにあたっては、やはりここからが面白いものだろうというふうにも思える。
 多くの演奏家が対話には登場する。本書では、その一人ひとりに、簡単ではあるが注釈がその場に置かれているので、多くの人についての理解も深まるであろう。ジャズのことをよく知らないにしても、どこかで聞いたことがある、というような名前が登場するであろうから、そこにも目を落としていくならば、知らず識らずのうちに、一定量のジャズの知識は身についていくのではないだろうか。私のような素人にも、ありがたい注釈である。
 ただ、よく私が言うことだが、こうした知識については、「索引」が欲しいと切に思う。あと4頁も要らないと思う。索引がないということは、後から参照したいときの道を閉ざすということである。つまり、一度読んだら二度と読まなくてよい、というような本の制作姿勢だと感じてしまうのだ。せっかくこれだけ力を入れてできた本である。後から曲を聴いて、そう言えば……と思ったときに、開く本でありたいではないか。ハードカバーに仕立てた本ではないか。読み捨ての文庫ではないのだ。
 最後になったが、本書を開くとまず目に入る言葉がある。扉に、ビル・エヴァンスの言葉がぽつんと掲げられているのだ。「ジャズとは一分の曲を一分で作曲することである。」
 これだけで、惹きこまれる。演奏する側ではないけれど、魅力のある言葉である。しかし、それはただの思いつきではないということが、読んでいくと分かる。それでいて、やはりそりは思いつきである。天来の感覚が生み出す、素敵な思いつきである。しんみり聞き入るのではなく、元々踊るために演奏されていたというジャズの厚みが、ひとの心を愉しませるためにあったとしたら、それがやっぱりいいじゃないか、という気にもなる。そして、それをまた分析するこの本のような人がいたら、さらにまた納得するのではないだろうか。いいスタンスの本だと思う。




Takapan
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