本

『スゴ編。』

ホンとの本

『スゴ編。』
編集者.jp編著
美術出版社
\1575
2010.5.

 カリスマ編集者から学ぶ7つの仕事力、というサブタイトルが渋く「ゴ」の字の中に収まっている。デザインビジネス選書の一冊だという。九人の編集者へのインタビューがまとめられている。
 出版業界の雲行きは怪しい。ただでさえ、活字離れなどと言われる。電車の中で本を読む姿が激減し、ケータイをいじっているのが殆どである。電子メディアが華やぐ中で、紙の本に存在意義を感じないという人が増えているのは確かである。しかしまた、それは本を読みたがらない、面倒くさいという立場の論理なのであって、活字中毒の人は多々いるし、本をこよなく愛する者も決してなくなることはないだろう。だが、とにかく出版社は日常的に売らなければならない。また、大きなものを当てるのでなければ、売れない本を企画した分の赤字を埋めることもできないであろう。
 売る。売るとは何か。それが分かったとしても、だからその編集者の作った本がすべて売れて成功するというものでもない。売れるかどうかは、売ってみるまで分からない場合が殆どなのである。
 比較的若い世代の、元気のいい編集者の声をここに集めた。それぞれに経てきた道や背景が違う。考え方も同じというわけではない。だが、こうして九人を集めて訊いていくと、なるほど何か共通する一本筋が通っているなと思わせることもある。どの人も、自ら本をよく読み、世間が求めているものを感じとろうと努力している。世界の空気を読もうとしているのだ。そして、決してお人好しではない。どこまでも利益のために、販売を上げるために、どうすればよいか策を練っている。
 ここでは、ビジネス書が中心である。なんとか世のサラリーマンたちに本を手に取り、買ってもらわなければならない。そのためにはどうすればよいか。ここでの話題はそういう辺りに集中している。書店に行けば、数限りなく自己啓発書がある。勉強の仕方を教えるぞというふれこみの本がまたよく売れる。実際何をどう勉強するのか、それを決めるのは本人らしい。だがさて、これだけ減った読書量の中で、それはうまくゆくのだろうか。インターネットで情報は入る、などと言う人がいるかもしれないが、玉石混淆の中で信頼のおけるものを見分けるだけでも大変な苦労を強いられるし、第一どんな情報がそこにあろうと、考える知恵は主体たる私という人間にあるはずである。情報コレクションでは創造はできない。
 などという事情があろうがなかろうが、編集者は売れる本を企画していく。その姿が実に生き生きと伝わってくる。地味な本であるようで、これはなかなか見たいと思う人が数多いものではないかと思う。それでも、いくら売れても、そのことに興味がある潜在的読者の1%が本を買う最大量であろうという説明もあり、売るというのは実に大変なことであると改めて思わされる。
 ともあれ刺激を受ける本である。書店もまた激減する時代にあって、本というものがどうやって息を繋ぐのか、考える一時が、私たちの中であってもいい。
 それにしても、考えてみれば、よくぞよその会社の編集者たちの生の声を集めることができ、しかもそれを自社の本として売るということができたものだと感心する。
 しかも内容は、どうやって売れる本を作り出したのか、というテーマである。これを実現させた、この本の編集者が、最もスゴイと私は思う。




Takapan
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