『数学脳』
岡部恒治・桃ア剛寿編著
日本実業出版社
\1365
2006.8
本やゲームソフトが売れると、類似のものが店頭にずらりと並ぶのはよくあること。脳のトレーニングと言って「脳力」などという言葉が発明されたり、ただ本文を書き写すだけの本が奇妙な売れ方を示したりと、ずいぶん暇な人も多いのかしらと勘ぐってしまう。
目の前の社会で起こっていること、起ころうとしていることに対する思考を止めて、素早い足し算や字の練習の訓練をして、自分を磨いているという勘違い。飽食の末に痩せようともがいている姿と重なって見えもする。
いや、そんな非難をするつもりでいたわけではない。この本のタイトルについて、どうなんだろう、と思っただけのことだ。
あくまでもタイトルである。内容は面白い。私も、商売柄、この手の数学パズルものは、ちらりとでも覗いてみることにしている。ありきたりのつまらない数学的クイズを集めて載せているだけの文庫もあれば、数学的説明など殆どなされていないもの、あるいは中学入試問題というブランド名で釣っておきながら、読んでも理解しにくて説明しか施されていないものなど、辟易していたものだった。
そこへいくと、この本のパズルは、新鮮に感じるものが多かった。しかも、数学的に理由がよく説明されており、しかも、熊本市中学校数学教育研究会の諸先生のアイディアから来ているというから、中学生に教える内容を踏まえた、実に鋭いオリジナル的要素をもったパズルが並んでいるのだ。
日頃、中学生と差し向かいの現場で、どのように説明すれば中学生が「わかった」という顔をしてくれるのか、奮闘している、中学教師ならではの発想、説明であると思った。
はたして、その説明がベストであるのかどうか、は分からない。ここに載せられているのは、編著者が、ビジネスマン向けに編集し直したものである。むしろ私などは、その中学生への説明そのものを、ここに公開してもらいたかった、と残念に思う。ビジネスマンにとっても、その方がよかった、と言えることがあるのではないか。いつも私が言うが、誰もが分かるように説明するというのは、最も理解の深い人でなければ、できない技なのである。
ちなみにいくつかの問題は、中学受験のためにもたいへん役立つ説明となっていたから、塾指導者もちらりと覗いてみるとよいかもしれない。