本

『ストレスとうつ』

ホンとの本

『ストレスとうつ』
徳永雄一郎
西日本新聞新書002
\700
2005.2

 福岡の地方紙と言えば西日本新聞。地元の情報なら第一に信用される新聞である。
 このたび新書シリーズを始めた。第一弾は、新聞の一面コラムを連ねたものであった。その第二弾が、これである。
 やはり福岡の医師による書き下ろしである。
 鬱病は、果たして病気なのかと思われるほど、私たちの中に蔓延している。いや、誰の心の中にも、その要因はあるのであり、人間であるかぎりそれは関係しないことはないと言ってよいものだとさえ思われる。
 しかし、たとえば自殺へと流れていくその心的状態は、見逃していてよいとは言えない一面がある。せめてその傾向などに気づくなら、何らかの対処の仕様があるからだ。
 著者は病院長であり、また大学での指導もしている。豊富な臨床経験が、机上の空論に終わらぬ様々な人の生き方を見つめてきた。
 こうした病気に対する著書は、その著者の考え方や立場が大いにものをいう。私はこの本については賛同することが多かったのだが、それは156頁にこんなふうにまとめられていた。
《私は医者ではありますが、うつ病を病気ととらえずに「一人の人間の生き方が壁にぶつかった」と考えて診察しています。その壁は仕事量の多さや、仕事の対処方法、性格上の問題など個人によってさまざまです。本人が「壁」の中身を認識することで、再発を防いでいくことになります。》
 ただし、そこは医学の専門家。薬や再診の治療法を駆使しながら、多くのケースに挑んでいく。《残念ながら、この十五年間において五人の方の自殺を防ぐことができませんでした。》という「はじめに」の言葉も、誠実さを感じさせる。2400人の患者を支えてきた中での5人を、重大にみているのである。
 臨床の事例の紹介が多く、書物として流暢であるとは言い難いが、私たちは自分の悩みや家族の悩みを、この個々の事例の中にどこか見出していくことができるだろうし、そのとき、何か光明がさすような気持ちにもなれるものである。
 そしてまた、同じ職場にこうした苦しみを抱える人がいることの認識のためにも、それは役立つであろう。




Takapan
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