本

『ステンドグラスの天使たち』

ホンとの本

『ステンドグラスの天使たち』
志田政人
日貿出版社
\1,400
2003.10

 美しい本である。表紙からして、ステンドグラスの美しい光の芸術の一端が輝いている。ステンドグラス作家としての著者が、フランスの様々な地にあるステンドグラスを集めて、系統立てて紹介した本である。
 すべてカラー写真のページである。本を開くと、その眩しい色彩に目が眩みそうになる。v  が、写真だけではない。お告げの天使、祝福の天使に始まり、天使の様々な相を必要十分な程度に説明してくれる。カトリックならともかく、私はプロテスタント教会に行っているから、天使という概念については、あまり詳しい認識はない。もちろん、聖書に出てくる御使いについて知らないわけではないのだが、この天使という問題は、ユダヤやオリエントのさまざまな伝説に基づいている面があるため、聖書だけの文献で満足に知ることは難しいとされている。あいにく、直接であったという意識もなく、聖書の記述を頼りに想像するに過ぎない。
 そもそも天使の語は、語義からして、メッセージを伝えるという程度の意味の言葉からきているという。その天使は、性質がはっきり誰にでも明らかなように記されているわけではないから、古来想像の翼を存分に刺激してきた。しかしまた、御使いとしての天使は、霊そのものでもあり、自由な現れ方をすることができる。実にさまざまな側面、秩序をもちつつ、天使の系譜が作られてきた。中世までの人間が、どこか抑圧的に、あるいは精神的に自由が与えられずにいた時間は、無駄ではなかった。そのことが逆に、豊かな想像を生んだのである。
 ただ見ているだけでも美しい。ガラスって、こんなに……と驚く。
 図像学というものがある。絵の中の配置や描き方のルールを明らかにする研究である。父なる神を画家が描くとする。その中に同時に、キリストや母マリアの姿を書き入れるとする。すると、父なる神より高い場所に、キリストやマリアの姿を描き入れることはないというのである。しかし、天使は、父なる神の上にも飛んでいるのだそうだ。それくらいに天使は自由な部分があるのである。これは逆に、天使というものに対する人々の尊敬や憧れのようなものも含んでいることなのかもしれない。
 私は、楽器を奏でる天使に興味をもった。ステンドグラスが作られた時代の影響が当然出ているとはいえ、天使たちも楽器演奏が上手である。オルガンやリュート、タンバリンまで、さまざまな楽器が扱われている。天上の音楽については、ちょっとロマンチックな想像をしていたいな、と思う。
 美しい本だ。
 各章が、聖書の言葉で始められているのも、たいへんいい。こんなふうにして、一般の人に聖書の言葉を伝える方法もあるのだ、と思うと、少しうれしくなった。




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