本

『そうだったのか!「算数」』

ホンとの本

『そうだったのか!「算数」』
柳谷晃
毎日新聞社
\1470
2004.9

 本の表紙に「お父さんもお母さんもわかる」とあるが、この本自体、小学生が読む本ではない。
 大人のための本である。
 最近、大人のための計算ドリルとか日本語テストとかいうのが流行っているので、算数のコツのようなものを紹介しよう、というふうにつくられた本であるのかもしれない。じゃあひとつ、算数のなんとか算の考え方を教授する本があったらいいじゃないか、とでもいうように。
 だが、私の印象は必ずしもそうではない。私のように、算数を子どもたちに教える者にとって、実にありがたい本なのである。
 ただ問題の解き方だけを逐一教えればよい、と考える先生もいる。むしろそのほうが、塾の教師としては優秀であるのかもしれない。うだうだ細かい事情や訳などを解説せず、これはこうする、と教えたほうが、短い時間で大きい効果をあげることができるのである。
 しかし私はそうではない。土台にわりと目を配る。そして、算数を「思考」の学びという位置づけにしているため、「ものの考え方」として教えたい気持ちで一杯なのである。
 どうして60進法があるのか。どうして分数は分子割る分母なのか。場合の数の計算をするときに、どういう順序で調べるとよいのか。言われていない「裏」を考えろ。考え方の原則というものを披露し、事態に立ち向かうときに役立つ思考法を伝えたいと願っている。
 だがそのためには、数学の歴史や、数の概念、さらには哲学的な思考も必要となる。この本は、そうした歴史や概念の説明に余念がない。いわば、ちょっと蘊蓄を語りたいようなときに、へぇと思わせる「ネタ」が、ふんだんにあるということである。
 子ども向きに書かれた本は、いかにも子どもに話しておけばよいような程度の知識であるかもしれないが、この本なら、十分大人の理解に相応しいだけの広く深い知識が紹介されており、その中から、読者が噛み砕いて、子どもに伝えればよい構造になっている。
 その方がいい。豊かな背景から語られる知識こそ、説得力のあるものとなるからだ。
 予備知識のない大人が読んでも、ピンとこないところが多いのではないかと思う。この本は、小学校の教師や塾講師のために書かれてあるのではないか、と私は勝手に思っている。その意味では実に役立つ本である。




Takapan
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