本

『そうか!なるほど!!キリスト教』

ホンとの本

『そうか!なるほど!!キリスト教』
荒瀬牧彦・松本敏之監修
日本キリスト教団出版局
\1500+
2016.9.

 タイトルが明るく、軽い。入門事項であったら、個人的にそればかり読んでいくわけにはゆかない。しかし、ひとに勧める意図もあれば、分かりやすい本があるのかどうか、気になる。また、自分でも、どのように書けば分かりやすいものだろうかということは勉強になる。
 そんな動機で、図書館で手にとって開いてみた本である。
 しかし、期待を裏切られた。
 これは、強者である。本格的であり、これはかなり凄いことが書いてあるのだ。表向きのタイトルと本のデザインがの醸し出す、いかにも入門というような雰囲気には合わないと言ってよい。いや、立派な解説書だということだ。
 質問は、50。その答えは、すべて見開き2頁に収められている。大変見やすく、また探しやすい。しかし作るほうからすれば、どんなケースでもその中に収めなければならないという制約が現れる。サービスするほうが困難である。その問いとというのはそこに一つだけあるのではない。たたみかけるようにして、問題考察を深めていくのだ。
 たとえばQ25「神さまは男? 女?」を開くと、それに対する回答が頁の半分に書かれているが、それに続いて、新たな問いが続く。「神さまは男でも女でもあるってこと?」と、その回答を聞いて出てくるような問いが付け加えられる。これに対してまた回答が頁の残りでなされるが、次の頁の頭ではさらにまた「イエスが指し示した神のイメージはどんなものだったの?」と、説明を受け継ぐかのように問いが深められていく。そして最後には「わたしたちは神さまをどうイメージして呼びかけたらよいの?」という問いに対して答えることで、まとめられるという具合である。最初の問いに対する端的な回答は、実は右の頁の下の段に、太字で目立つようにして、「神の中に男女両面があって、神は人の性別を超えた存在です」と置かれている。そこで、男であるとか女であるとかいう捉え方ではなく、それでは神はどういうイメージで捉えればよいのだろう、というところにまで読者を導いている、というように見える。単に男か女かという問いの背後にあるであろう、神をイメージするときにどうすればよいかという問題にまで関わって答えてくれるというわけである。
 この問題は、フェミニズム神学に関わる問題でもあり、しかしながら、しばしばあるように、かなり過激な言い方で論ずるということもなく、どちらかというと穏健に、だが逃げもせず、切れ味は鋭く答えられている印象があり、この答え方が絶妙であるように見える。このことは、他の問いについても同じで、キリスト教世界でたいへんデリケートな問題に対しても、ごまかしたり逃げたりすることなく、かといって極端な回答をもたらすようなこともなく、また、特定の立場にある人や考えをもつ人をひどく傷つけることのないように、私から見てもたいへん気遣いのある答え方をしているように見えて、いろいろな問題に対する答え方としても学ぶところが多かった。
 そう、様々な思想的立場や解釈の手法から、ここに書いてある答えを、私が全く知らないというわけではない。が、答えが最先端であると共に、かつ誰もが気を悪くしないような答え方がなされているという芸当がここにあるのに驚くわけである。
 いったいこの本は、と思い、後で見ると、これは実に多くの執筆者に依頼をかけて、その道の巧者がその質問の頁をまとめていることが分かった。そして、いまここに名前を挙げはしないが、いま日本で集められる比較的若手が多いが、活発な議論を展開している凄いメンバーが名を連ねていたのである。ああ、これだけのメンバーが集まれば良い本ができるわ、と納得した次第である。そして、それだけの執筆者を集めてできたこの本が強者だと感じた自分の目も確かだったとほっとした。
 しかも、質問は精選して、誰でもネットで検索すればすぐにでも分かるようなことはここに載せない方針にした、と最後に説明されていた。そう、かなり微妙な問題ばかりだと言ってもよいのである。最初のほうでいきなり、中絶や出生前診断をしてよいのか、とか、セックスについてどう考えればよいのか、とかいう問題が並んでいる。そして、それに対して四半世紀前だったらありえないかもしれないような、現実的でしかも実際的な答え方が、しかも聖書に基づくものとして答えられているのである。その他、聖書の歴史についても、信仰一辺倒で理想が述べられているわけではなく、かといって単に事実だけを並べて信仰心を殺ぐようなことも全くなく、信仰へと連なる道がそこから見えるようなまとめられ方をしているということで、本当に感心しているのである。
 そういうわけで、これはすぐれものである。聖書や信仰について、キリスト教一般について尋ねられても、申し分のない回答ができるように作られていると理解して、これはもっと宣伝されて、信徒や牧会者が手許に置いていて然るべき本であると私だったら推薦するだろう、そんな本であると考えている。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります