『あの日の空の青を』
まついのりこ
童心社
\1260
2005.7
薄い本。絵本作家が、その娘さんにイラストを描いてもらって作られた本。短い文章の集まりであるために、誰もがすぐに読める。
その文章が、実にうまい。
いや、そんな言い方は失礼だ。テクニックのように聞こえてはならない。そこには、「心」がある。こんなに「心」が伝わってくる本も、珍しいとさえ思う。v
何度も、お父さんのことが同様に語られるのは、これらの文章が、各方面で別々に綴られたものだからであり、その都度触れなければならない事柄でもあるわけで、一度に読み続けると何度も目に触れるのであるが、不思議とそれは悪い印象を与えることがない。それどころか、胸にじぃーんと響いてくるばかりである。
題もすばらしい。「あの日」とは、敗戦の放送を聞いた日である。経験者誰もが辛い響きで語りがちなその日のことを、筆者は、希望の日として捉えている。次の世代への信頼と希望を、新たな平和の誓いの中に置いて、そう言い切る。
私は、最初のエッセイの4行目から、心を奪われた。「美しいものを人間の心から消し去らせることによって、戦争への一直線の未知がつくられていた。」
国を愛することこそ美しい。お国のために死ぬことは美しい。そういう空気に染め上げられていく時代の中で、もっと素朴な、色のついた服、おひな様といったものの中から消えていく美のことを口にするのは、まるで裸の王様を指摘した子どものように、あまりにも真実そのものであって怖いくらいであった。
その子どもたちは当時、カラフルな毛糸の人形をカバンにぶら下げることで、せめてものその美しいものへの心を納得させていたという。派手なものが禁じられる中、それは「爆風よけ」のお守りであるという解釈をすることによって、大人からの禁止を防いでいたのだという。
治安維持法のために逮捕された父親が、著者に大きな影響を与えている。私は、このような父親に、なることができるのだろうか。そんな憧れさえ抱く。
もう、どの文章も、限りなく重く、人間の心の奥の大切な部分をがんがん揺すってくる。どうか、どなたもまずこの本を一度読んで戴きたい、と叫びたい。