本

『そうだったのか! 現代史』

ホンとの本

『そうだったのか! 現代史』
池上彰
集英社文庫
\730+
2007.3.

 賞味期限の切れた状態で私は2021年になるころに読んだ。2007年の文庫なので、当初の発行2000年以降のことも含めた形で発行されているが、確かにその後の世界の動きもずいぶんとあった。池上氏はもちろんその後の世界のことも、同様な本として書いているわけであるが、この戦後の冷戦の始まりあたりからの世界構造というのは、その後の世界の関係を決定づけるものが確かにあったと言える。
 本書は、冷戦からドイツ分割、またソ連内部の事情や中国で起こったことなどが次々と分かりやすく語られたものと理解してよいだろう。イスラエルとパレスチナの問題の原点や、ベトナムとカンボジアの戦争の背景やその影響など、世界を変えるに至った出来事が適切に説明されている。
 世界的な事件を取り上げるならば、ベルリンの壁の崩壊や、天安門広場での出来事、この辺りで幕を閉じるべきだったのかもしれないが、事件というよりグローバルに決定的な影響を与えるものとして、マネーの制度から石油外交などが取り上げられている。そしてヨーロッパがひとつにつながっていくこと、他方ユーゴでの紛争などが本の終わりを飾っている。
 複雑な出来事を、端折って短く説明すると、ある程度単純化しなければやっていけない。そして複雑な関係を分かりやすく説明するというのが、如何に難しいかを証明しそうな本のテーマであるが、池上氏の力がこめられ、平和への願いが熱い思いとなって綴っていることで、一読して分かりやすい解説となっている。分かりやすく話すということを大いに真似したいものである。
 しかし世界の常識は、私たちの狭い日本社会で考えるものとは訳が違う。呑気な平和を堪能している私たちからすれば、どうしてそんなに争わねばならないのか分からないし、すぐに暴力を揮うことに抵抗があるかもしれない。しかし、自然の堀である海に囲まれた城にいる私たちと、陸続きの中で城壁で囲まれた街を守らねばならない多くの国とでは訳が違う。多民族がひしめきあい、互いに信用できない中でにらみ合っているとなると、先手必勝ということも肯ける。そもそも「平和」が、長閑で何もないことをイメージさせるような私たちの文化と、戦い抜いて敵を制圧して初めてもたらされるものとしてしか考えられない文化とでは、考え方が根底から違うということになるであろう。
 だから日本が駄目だ、などというつもりはない。但しこの百年、世界は互いに密接なつながりをもってくるようになった。日本の論理を押し付けるようなことはできない。また、日本も他国から学ばなければならないことが多々ある。互いにできることがあろう。自分の役割というものを感じてもいい。しかしそのためには、まず知らねばならない。無知であることは、自分の考えを神とすることにもつながる。相手を理解することが愛だとするならば、ここで愛を働かせねばならない。自分本位の正義を振り回すようなことであってはならない。簡単な道理である。
 本書のように、世界で起きていることの意味を、歴史や地理的な背景から分かりやすく示してくれる解説者の存在は大きい。それは輿論を動かすためでなくてよい。人々が何かの煽動に巻き込まれ、また流されないために、考える要素を提供するのである。大本営のプロパガンダを正義として勘違いするのは、似非知識人にはありがちなことである。教育の浸透はよいことであるが、この似非知識人を生み出しやすい危険性がある。池上氏だけに頼ることはできないが、池上氏もまだまだ活躍してもらいたいと思うものである。




Takapan
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