本

『カトリーヌちゃんのサイコロ』

ホンとの本

『カトリーヌちゃんのサイコロ』
関阪千里
北大路書房
\1470
2006.4

 不思議な本である。副題は「ソシオン理論で読み解く人間関係」とある。新しい宗教だろうかとも訝しく見てみたが、宗教というよりも、心理学関係のものらしい。「スピリチュアル」などの言葉を巧みに操る怪しい動きもあるゆえに、警戒して読み始めたが、悪意は感じられなかった。いやいや、そんな言い方は失礼かもしれない。それほどに、人の心を扱うという書物には、信用できないものが多いということだ。
 著者の実の母親のことをモデルとして、人生の一コマで出合うようなシチュエーションを題材として、人間の心理を、その背後に潜む天使が読み解くという構成になっている。なかなか面白い。人は、自分という眼差しからフッと外れて、別の視点をもったとき、すでに悩みの一部は解決されたと捉えることもできるというくらいで、この天使という視座は、それだけで現状を抜け出すための効果的な設定となっているように思えた。
 難解な理屈は別冊のソシオン理論云々というほうに任せて、ここでは、読みやすいストーリー設定に終始している。気軽に読むだけで、何か自分の問題を打破するためのきっかけを掴めるかもしれない。
 でも、こうしたどこか抽象的な理論で、人の心の抱える問題を解決できるというふうに幻想を抱くとすると、どうかなとは思う。特定の法則で何もかもが成功するというのは、しばしば世に現れる騒ぎではあるけれども、人生がそんなに簡単に法則化するようには思えない。一部の現象から帰納的に法則を作成しても、それがすべてに妥当するというのは、科学においてすら検証を必要とするものであって、まして人間心理については、「知恵」程度にしか見なされない性質のものである。
 しかし、その「知恵」を心得ているというのは、現実の生活の節々において、役立つことには違いない。その意味では、これだけの装丁をして多くのストーリーを提示しておいたことも、いくつかの知恵を印象づけたということで、役立つ効果を示すことができたといえるだろう。
 ただ、この書名の意味が、いまだによく分からない。107頁のことだというわけなのだろうが、これは4人のモデルに過ぎない。もっと人数の多い社会において4人だけのモデルが通用するようには思えないのだが……。




Takapan
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