本

『雪の名前』

ホンとの本

『雪の名前』
高橋順子文・佐藤秀明写真
小学館
\2600+
2024.12.

 全160頁であるから、その割には高価であるように見える。だが、しっかりした想定とつるつるの美しい紙質、そして何よりも、この写真の素晴らしさ。これは写真集としても価値がある。価格以上のものを認めることができるだろうと思う。
 表紙が、実は本の内容をそのままに伝えている。雪にまつわる言葉が大きな文字で示され、比較的短い説明が付けられている。そして、そのすべてについてではないが、幾つかの言葉に関係のある写真が置かれている。そのどれもが本当にきれいな写真だ。
 ところどころ、短歌や俳句が載せられており、それに見合った写真も多い。コラムも時折寄せられて、ひとつの雪にまつわる事柄について、思いが馳せられている。  文字を組んだ高橋順子氏は、詩人。千葉県生まれだといい、雪と生活してきた人ではない。ただ、この本の企画については「永く夢想してきた」と言い、周囲に協力者が現れてきたという。それを、「私の周囲に雪が降り始めた」と表現するところが、さすが詩人である。
 自ら生活の中で雪に接してきたわけではない人が、これだけの雪の情景について記すというのは、よほど想像力に勝る人であるのだろう。そこがまた詩人というわけであるだろうが、そう聞くと、私も案外雪にまつわる言葉に多く触れているということに気づく。もちろん、ここに挙げられた一つひとつの言葉を知り尽くしているわけなどない。東北や北陸地方の方々の生活の苦労も寒さとの闘いも、微塵も知らず傍から見ているだけに過ぎない九州人である。
 だが、福岡はとりあえず日本海側である。積雪は毎年ある。温暖化が囁かれ、近年はどか雪はなくなった感があるが、スキー所も一応存在するし、山間部には長く雪が残っていることがある。子どもの頃は、さらに雪については、4月に積雪があった記憶がある。あの頃はやはり寒かったのではないかと思う。私はしもやけの絶えない子どもだったし、手袋なしでは冬は辛かった。家の小屋部分のトタン屋根からは氷柱が垂れていたし、通学路には霜柱が立っていた。雪合戦も冬ごとにしていたし、子ども目線ではあるが大きな雪だるまもこしらえた。舗装されていない土の道には氷が張り、特に浅い水たまりだと底まで完全に凍っていて、靴で踏んだくらいでは割れないものもあった。
 しかし、それは可愛いものである。本書に集められた雪の厳しさは、生活の中で苦しい思いをする人々ならではのものであると言えるだろう。
 それでも、そんな雪を敵視しているだけが人々の知恵ではない。病気と付き合うのと同じにするわけにはゆかないが、この雪とも親しく接してゆけるなら、それもまた知恵であろう。そんな、心通うような雪への眼差しや、雪に見るユーモラスな思いも、それぞれが言葉という形で使われ、伝えられてゆく。
 調べられる限り言葉を集め、また方言として当地の人々のほかは聞いたこともないような言葉も織り込みながら、本書は美しい雪景色の写真と言葉が織りなす風景を以て薦められてゆく。
 雪の言葉は、一定の主題の許に集められ、並べられている。目次から挙げれば、まず「雪のすがた」が集められる。「雪の美称・異称」「降る雪」「積もった雪」そして「吹雪・なだれ」からまず始まる。それから「雪でつくる」「雪でゲーム」「雪ですべる」そして゜雪を渡る」という「雪あそび」の言葉。
 さらに「雪のかたち」として、「雪の造形「雪の結晶」そして「雪の紋章」と並ぶが、ここには実際の紋章の一覧など、歴史的な資料も紹介されており、貴重な写真を見る思いがした。
 それから「暮らしの雪」というテーマでは「雪景色」「暦の雪」「雪とともに」という漠然とした項目から、「雪の精」「雪の周辺」と、ここには少しばかり雑多なものが最後に置かれている、という印象もある。
 本当に最後にあるのは「雪のことば」として、「雪のことわざ」や「たとえて雪」ということで、近年話題のシマエナガは「雪の妖精」にたとえられているのだ、という。もちろん、可愛い写真も添えられている。
 一例だけ引くのも申し訳ないが、その「ことわざ」で私が思わず笑い、それから考え込んだものがある。「春の雪と叔母の杖は怖くない」というのだ。解説に、「叔母は父母のように本気では叩かないので怖くない」と書かれている。そうか。昔は親が子どもを叩くのは当然だったのだ。そして、叔母も多分に同居するような環境だったというのだろうか。いろいろ想像させる言葉であった。
 最後のエッセイで、枕草子と源氏物語に触れられているのは、なんとも優雅である。京の雪は、昔はどうだったのだろうか。
 なお、本書の優れたところとして指摘しておきたいが、「索引」がちゃんとある。これがあるだけで、本書の値打ちはグッと上がる。当たり前とお思いかもしれないが、ここのところ、こうした索引を略する本が目立つので、美点として挙げることにする。




Takapan
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