本

『雪の手紙』

ホンとの本

『雪の手紙』
片平孝
青菁社
\1785
2011.1.

 ハードカバーの写真集。価格も決して安いとは言えない。
 だが、味わいがある。
 私としては、「目の保養」になった。
 まず、雪の結晶に始まる。美しい写真が提供される。写真技術として考えても素晴らしいが、その美しさには圧倒される。結晶の写真は、それ相応の温度の中でしか撮影できない。しかも光の具合もあり、特殊な撮影であることに違いはない。結晶はひとつひとつすべて形が違う。幾多の写真を撮影し、そこから選りすぐったものであるという苦労を考えても敬服に値する。
 雪の結晶と言えば、中谷宇吉郎の名前が私にはすぐに浮かんでくる。この人の功績を抜きにして、結晶の問題を語ることは難しい。しかし、この本は論文ではない。おそらく中谷先生に敬意を抱きつつも、そこには触れることなしに、ひたすら雪そのものの美しさに読者を誘う。
 雪の様々な表情が待ちかまえている。こんな積もり方があるのか。まさかこんなふうになっていようとは。きっと、誰かが作ったに違いない。そんなふうに思わせるような、自然現象が写真に収められる。よくぞこれだけの珍しい風景に出会っているものだと感動する。いや、この画像を得るために、とんでもない苦労と忍耐とが積み重ねられていたのだ。
 冠雪・雪捲り・雪紐・氷紋・鏡氷……もう目を見張るしかない。しかし、なにげないはずの氷柱・霜柱さえ近年は希少価値をもつものと化してしまったことを、私たちはどう捉えたらよいだろうか。
 この本を手に取ったら、終わりのほうの84頁から数頁をまず見てもらうといいかもしれない。楽しくて仕方がない。それとも、ここはできるだけ最後に残しておいて、ほかの雪に十分感動してから見たほうがよいかもしれない。なぜか。それは、実際にそうしてくださると分かるだろうから、ネタバレになるようなことは、ここでは言わないでおくことにしよう。
 私の趣味だと、23頁と31頁がお気に入りである。これも、何であるのか、言いたくてうずうずするが、やめておく。
 最後に環境問題にも触れることになるが、ずっと見終わって気づくのは、これらが「目の保養」であるのみならず、「心の保養」でもあったということである。




Takapan
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