本

『SNOOPYのちいさな恋人たち』

ホンとの本

『SNOOPYのちいさな恋人たち』
チャールズM・シュルツ
谷川俊太郎訳
角川文庫
\419+
1998.11.

 鶴書房の時代に、新書版のものでなじんでいたPEANUTSなので、文庫本というのに少し抵抗がないわけではないが、テーマで編集してあるというのも悪くない。今回は、古書店で見かけたが故の偶然の取得だが、テーマがよかった。
 チャーリー・ブラウンが、案外いい思いをしているのだ。いや、それは語弊がある。うまくいくものではないのだが、一時的にもいい思いに浸っていて、希望すら懐いているというのが、ちょっといい。しかも、言っては何だが、二股をかけているのだ。これは由々しきことである。
 スヌーピーは、この世界からは埒外である。私はもちろんスヌーピーがお気に入りであって、スヌーピーの世界から引いたアングルのこの巻が特別に好きだというわけではないのだが、スヌーピーはチャーリー・ブラウンに干渉することなく、じっと見守るスタンスをとっているようで、そこがまたいいなと思うのだった。
 そのとき、恋愛ごとを、クッキーを常に基準において考えようとしているあたりがスヌーピーそのものなのだが、世の中には、スヌーピーをキリストの役に見立てる見方というものがある。シュルツは信徒説教もできるほどの信仰あふれる人で、チャーリー・ブラウンは自分の分身のように考えて執筆していたと思われる。そんなとき、邪魔をしたり、助言をしたり、いや言葉というよりは態度によってチャーリー・ブラウンに指針を与えるようなことのあったスヌーピーは、確かにキリストのように静かに導く針路でもあると見る可能性のある存在だった。クッキーは、もしかすると聖餐の恵みを重ねているのではないか。そんな見方はあまりに取って付けたような思い込みなのではあるのだろうが、好きな女の子にはクッキーを贈るように思うあたりも、なにか心をくすぐるものであった。
 手書きの大文字による英文は、なじまないとちょっと読みにくいかもしれないが、英語そのものは比較的分かりやすい。稀に知らない単語はあるものの、概ねそのまま読める。本書は毎日数頁ずつ、英語でとにかく読もうと決めた。それから谷川俊太郎さんの日本語訳をも味わう。そうか、詩人はここまで読み込んでこのように訳すものなのだ、と改めて感動する。やはりPEANUTSは谷川俊太郎さんでいいだろうと思う。言葉に敏感な人、言葉の粋を知り、言葉の極まで走り抜けることのできる人に訳されて、PEANUTSは日本で命を得たというのは本当だろうと思う。その点、本書も変わることがない。
 キャラクターが増えすぎた後のPEANUTSにはついて行けなくなった一人だが、この頃のはなじみやすい。強いて言えば、ルーシーの毒味が本書では殆ど見られない。案外それが、爽やかな風を通している理由となるのかもしれない。但し、何年の作品であるのか、そのあたりが分かりにくい。Copyrightによると、1986年から1994年となっている。うむ、その頃はきっとずいぶんと落ち着いた構成になっていたのかもしれない。これだけ広い中から集めてきたとなると、その編集も大変だっただろうと思う。しかしそれだけに、読みやすく、読み甲斐のある一冊となったのではないか、とも思う。
 本書に限らず、ファンのみならず、分かりやすいPEANUTSシリーズが文庫で提供されたのはチャンスだと思う。どうぞ心にあたたかな小犬の温もりを抱くひとときが与えられますように。




Takapan
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