本

『空の虹色ハンドブック』

ホンとの本

『空の虹色ハンドブック』
池田圭一・服部貴昭著
岩槻秀明監修
文一総合出版
\1260
2013.7.

 この薄い、雑誌の附録のような小冊子が1200円するのか、と一瞬驚く。本を、量でしかはかれない私のような考えだと、そういう驚きを隠せない。だが、中身は濃い。貴重な写真が目白押しなのだ。
 虹の写真集なら、私も持っている。実に美しいし、こんな虹もあるのか、と感動の連続だった。また、その虹のメカニズムについての説明や、虹の名前なども説明があり、虹についての決定版なのだと考えていた。
 だが、このハンドブック、小さいけれども決して負けない。というより、これも「虹」と呼んでよいのか、という驚きを隠せなかった。
 よく見るとタイトルには「水滴と氷晶がつくりだす 空の虹色 ハンドブック」とある。そう、これは「虹」の写真集ではなく、「虹色」現象のカタログだったのだ。
 しかしそもそも、光の屈折から始まり、空が何故青いか、雲は何故白いか、いや雨雲なら何故黒いか、そうしたことを、しつこくなくさらりと簡潔に説明してしまうところは、理科の教師として見習いたいと思った。
 こうして、大気中の水や氷の結晶がつくりだす虹色の現象も、見える場所や仕組みによって、様々な呼称をもつことが11頁で紹介される。「光環」「彩雲」「太陽柱」「内暈」「外暈」「幻日」「タンジェントアーク」「環水平アーク」などいくつもあり、それらの写真と見えるチャンスや場所を含めた解説が81頁まで続くのである。これらの用語は、通常の日本語変換では漢字にしてくれないものが多く、それだけで専門用語としての輝きを感じる。
 不要なことは載せない。実に簡潔に、要点を余すところなく伝えている。理科系の本はかくありたいと思った。なるほど、これではハンドブックで済むはずだ。知りたいこと、原理、データ、それらがこの薄い中に完全に詰まっている。また、美しい写真はしっかりした紙質により支えられ、そこそこ頑強である。
 珍しい写真が多いことだろうと思う。そして、小さいサイズでしかないのが残念ではあるけれど、見とれてしまう美しさである。これがもっと大きな写真で目の前に並んだとすると、私は泣いてしまうかもしれない。虹を見て感動することは生きる条件だという捉え方が文学的にはあるわけだが、その「虹」の外延が拡がり、神秘的な美をこれだけ見せてもらうと、この世のものとは思えないほどの彩りと輝きである。聖書の中に様々な幻想や奇蹟があるとしても、それらは確かに現実にあったものだとますます確信するに足る、そんな自然の風景が立て続けに現れる本なのである。
 ただ、その現象が科学的に説明できているところが、信仰とは違う。やはりこれは自然現象なのである。でも、それにしても、美しい。




Takapan
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