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『説教塾ブックレット4・いまアメリカの説教の説教学は』

ホンとの本

『説教塾ブックレット4・いまアメリカの説教の説教学は』
説教塾編・平野克樹著
キリスト新聞社
\1800+
2006.11.

 副題に「説教のレトリックをめぐって」とあり、ブックレットとは言いながら200頁あるどっしりとしたもので、1800円+税という価格もなかなかのもの。開くと、学校の教科書のように字が大きくて読みやすいものの、情報量は見た目ほどはないようにも思える。しかし、アメリカの新しい説教の潮流について的確な解説がしてあるような気がして、求めてみた。
 これが実によく分かる、良い本であった。新年早々すばらしい本に出会えたと感謝する思いがした。アメリカに一年間留学を許された牧師の著者が学んだことをこのように知らせてくれた。これだけでも、その留学の意義はあったと思う。
 最初は「帰納的説教」とは何かを伝えるために時間を使う。従来の日本での説教の標準的スタイルは逆に演繹的と称され、いわば原理的テーゼをまず掲げ、それをいくつかの柱から説き明かすというタイプであった。それに対して近年のアメリカで持ち上がってきたスタイルは、説教者が会衆のひとりであるかのようにさえ振る舞い、身近な体験から語り始め、共に旅するかのように動き、最後に洞察に行くという。しかも、いわゆる適用のような結論を明らかにすることもなく、聴く者一人ひとりがその後のことを完成するようにする形で説教を終えることもあるのだそうだ。
 さらに、福音を体験させる出来事が起こるように言葉を用いる積極的なあり方としての、新しい説教学というものができており、それをニュー・ホミレティックスと原語のままで提示して、本書でその解説を貫いていく。これを後半では、三人の人気の説教者の実際の説教原稿とそれについてのインタビューを掲載して示す。しかも説教にはいくつかの注釈を入れ、その部分がどのような効果を有しているのかを教えてくれる。そうして、前半で述べてきた理論が具体的にどのように実践されているのかを告げるのである。
 最後に文献表を掲げ、その方面に関心をもつ人に対する案内もあり、小さな本でありながら、本格的な研究への優れた入口にもなっているように思える。私も早速そのうちのひとつを求めてみた。
 ニュー・ホミレティックスが万能であるわけではない。一つの試みであり、一つの新たな道である。それを走ることの欠点も当然見つめている。その意味で、新製品をひたすら売り込もうとするセールスとは訳が違う。しかし、言葉が生きはたらいて、聴く者の中で言葉としての神が立ち上がるような出来事になるという考え方は、私には非常に魅力がある。というより、私の拙い説教経験からして、多分にそのような形を、知らず識らずのうちにとっていたことに気づかせてもらえたのである。よくあるがっちりとした説教スタイルが私はどうしてもとれず、謎解きのように、しかし会衆と共に訪ねるつもりで語り進める気持ちをもっていたのであった。その意味で、共感できるために分かりやすかった、と言うべきなのかもしれない。
 本書が出たのが2006年。そう言えば、その後に編まれた「説教塾」のメンバーの説教集をいくつか読んだが、このようなスタイルのものが明らかに多いようにも思えてくる。この定式に因われず、神がいのちをもたらす語りの場というものに、語る者はもちろんのこと、聴く側の者も、もっと関心をもって然るべきではないかと思う。同時にまた、私はこうした語りを手話で伝える責務も負っているため、音声ではない視覚的な形でこのニュー・ホミレティックスがどのように可能で、どのような課題を有しているのか、そんなこともこれから考えてみたいと思うのであった。




Takapan
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