本

『神曲【全三篇 合本版】』

ホンとの本

『神曲【全三篇 合本版】』
ダンテ
三浦逸雄訳
角川ソフィア文庫
\499
2016.8.

 kindleのセール日に買ったため、通常は1881円で販売されているようだ。これだけの名作が安価で読めるとあらば、飛びついてしまうわけである。
 地獄篇・煉獄篇・天国篇と三つとも入っている。しかも、ダンテについてやその背景について、豪華な解説陣が説明を加えている。
 1300年という時代、ダンテはまだ若かったが、尊敬する師匠ヴェルギリウスの導くままに、地獄を訪ねてゆく。階層のような場面が次々と変わり、それぞれ一定の観察と対話などが展開する。それらは美しい詩で構成されており、当時としては珍しくラテン語ではなくイタリアの地方の言葉で書かれているという。そのため、当時の人々に好んで読まれたのだという。
 地獄篇では、その都度この世で犯した罪によって層が分けられており、苦しむ者たちの姿が描かれる。三つの篇は、ほぼ同じ数で、計100の詩からできている。生き生きとしたその姿は、聖書が社会に生きるために知るべき重要な書であるという文化においては、ワクワクするものだったことだろう。
 それも、ギリシアの哲学者や当時人が知る歴史に実在するような人々の名前が平気で登場する。よく一部の人に睨まれなかったかと驚くが、ダンテにしてみれば、天国や地獄などについての豊かな想像と、当時もしかすると教えられていたその構造などを、自由な想像力で仕立て上げた文学の宝石である。いまもなお、その文学的な価値は賞賛の的となっている。
 単純な言い方だが、悪いことをすると地獄に堕ちる、そういうことを絵パノラマのように教える本である。人々に理解しやすかったことだろう。だが、その後のルネッサンスの時代は、このダンテの書はむしろ乗り越えられていってしまったらしい。
 とにかく、聖書の人物もだが、ギリシア文化の哲学や文学など、様々な次元の人物や思想が、所狭しと並んでおり、それらを十分味わうためには、大いに教養が求められるところだろう。そのため、この邦訳は、膨大な注釈を備えている。kindleはその注がポップアップで見えるので、実に助かる。
 さて、ここまで故意に触れてこなかったのであるが、「神曲」とくれば、やはりベアトリーチェである。学問的にどのように見られているのかは知らないが、ダンテにとり憧れの少女であった実在の人物であろうと目されている。だが、物語の中ではダンテを天国に導く重要な役割を任された。愛する女性に最高の役どころを任せたことになる。もしかすると、何か聖書の思想を象徴させる存在として描かれたのかもしれないが、美しい女性に対する憧れは、男として理解できないものではない。もし私がこのような壮大な物語を書いたら、やはり頭に思い浮かべる憧れの女性、とくに思い出の中にしかいない女性を、とっておきの役に任じたであろう。
 相当に長いが、一日に三つの詩を読むのは、kindleならさして負担にならない。そうすると1か月で読み終える計算になる。私はそのくらいで読み通した。通勤電車の中のある区間でそれを読むことにしていたら、毎日が楽しかった。そして、実のところこれは詩であるから、頁の半分は空白である。時折マーカーを付することにしていても、恐れるほどの時間はかからない。関心をお持ちの方がいたら、よい機会を見つけて触れて戴きたい。
 ダンテの想像力ももちろんすばらしいが、やはりそこに溢れる教養には驚くばかりであった。時に注釈者も手厳しく、これはダンテの思い違いである、というような書き方をすることもあったが、それはそれで注には必要だったことだろう。昔から多くの西欧人に読まれ続けてきた。多くの作家が影響を受けたと言われる。目の前に豊かに現れるイメージは、私も味わった。あまりにも信仰的に古い感覚を与えるかもしれないが、聖書をご存じの方は、むしろ初心に返るような気持ちを与えられるかもしれない。信仰とはどういうことか、改めて教えられるような思いがする。温故知新というわけでもないが、キリスト者として一度は触れてみたい作品であった。読み終えて爽快である。




Takapan
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