本

『それから光がきた』

ホンとの本

『それから光がきた』
新川和江詩集
水内喜久雄選・著
理論社
\1470
2004.10

 詩集は、いい。読むために、活字を追うワーキングタイムが少なくて済む。かといって、早く読み進めるというものでもない。文字と文字の間に潜むものへ想像の翼をはばたかせるゆとりが、ふんだんにある、ということである。
 ちょうど、絵本を子どもが楽しみにするように、大人もまた、もっと詩集を楽しみにしてよいのではないか。
 実はこの本、イラストがまた実に美しい。内田新哉氏の絵であるが、少女マンガにそのまま使っても差し支えないくらいに、書き込んだ野の草原の風景は、実に味がある。
 肝腎の詩であるが、女性らしい細やかな気づき方が随所にあり、それはことさらに言葉が柔らかいという意味ではなく、時にガチガチの言葉でありながらも、素直な、人間として当然抱くであろう感情や気概といったものが、たっぷりと滲み出てくるものである。
 それはまた、命についての切実な眼差しからももたらされる。だから私は、惹かれるものを感じたのである。
 朝飲む一杯の水の中に、ヒロシマの声が響く感性が厳しい「ヒロシマの水」。表面張力でこぼれないコップの水に硬貨を入れていき、かつての自分がこうやって壊れたコップのようだったと懐かしむ「透明なガラスのコップに…」。
 私は「教えてください どこにいればいいのか」にも大きく共鳴する。「その朝も」「源流へ」そして最後の「生きる理由」へと続く、何らかの誠実な眼差しを、強く感じざるをえないのだ。
 ほっとする気持ちと共に、普段着の中での、切実な問いのようなものが、読む人の心に生まれてくる、そんな詩集ではないかと思う。




Takapan
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