『精選 神学大全2[法論]』
トマス・アクィナス
稲垣良典・山本芳久編・稲垣良典訳
岩波文庫
\1560+
2024.2.
2023年7月に、[徳論]から始まった、「精選 神学大全」のシリーズ2冊目は、7か月後に出版された。そして、ついまた買ってしまった。
これを読み、何がどう役に立つかというと、いささか心もとない。それは本が悪いのではなく、読む人間が自堕落だからだ。そして論理を解さないからだ。
だが、さすがにその形式には慣れてきた。すべて同じなのだ。
一定の命題が、まず主張される。その根拠が、たぶん殆どにおいて三つ挙げられる。それぞれに根拠が付け加えられる。哲学的な理由もあるが、多くは聖書の中にこのように書いてある、というふうである。あるいは、アリストテレスの著作の引用を理由にしているときもある。
続いて、「しかし、その反対に」と始まることが多い段落が挟まる。命題の結論が逆になるものの正当性が指摘されるようなふうである。その理由も、論理的なものもあれば、聖書に理由をもつものなど、いろいろな仕方で指摘される。この辺り、ディベートが行われているのを見るかのようだ。対立する意見それぞれに、何らかの根拠があって、それを主張することで、相手を説得しようとする場合、このような動きがなされることだろう。
そして最後に、「私は答える――。」と始まることで、トマス・アクィナス独自の議論が展開される。ここだけを拾い上げても、ひとまず主張は理解できるのであるが、それとは反対意見が何らかの根拠を以て存在するということ、またトマスではなく一般的に、それを否定する意見も存在するということが示された後に、大御所がいよい登場するというふうに、トマス・アクィナスの理論が現れる、という形になると、対比ができ、説得力もあるということなのだろう。
また、そのトマスの考えの中で、先に命題の理由として示されたほぼ三つの根拠の一つひとつについての検討がなされる。これがなければ、それを十分退けたことにはならないのだろう。完膚なきまでに潰して進まなければ、神学の城は築けない、ということなのかもしれない。
注釈も充実しているから、それが巻末であることは、いちいち参照するのに手間取ることは確かだが、そのくらいのことは怠らずに、一つひとつ見たほうがよい。多くは、トマスの著作のどこそこに論じている、というものであるが、トマス哲学を理解するために、また本書を読むために、大きな意味のある指摘も少なくない。私は、注釈のところに附箋を貼っておき、何かあるとサッとそこを開くようにしておいた。これだとストレスがかからない。
さて、「神学大全」であるが、その膨大な量の著作は、大きく「神論」と「人間論」と「キリスト論」とに分かれている。人間論は、倫理学とも理解される。そこはまた、概論たる一般倫理と、各論なる特殊倫理とに分かれる。その一般倫理にあたる箇所から、本巻は選ばれた。
人間のうちには、積み重ねた行為によって、徳または悪徳が身につくと考えられる。それが人間の行為をおよそ決めてしまうのだ。しかも、悪魔が働けば、人は容易に悪へと傾けさせることであろう。私たちは、神によって、そうならないように導かれる必要があるというものだ。
そうして本巻では、トマスは方の本質を問い、法は多様に存在するが、極めて重要な永遠法というものがある一方、人間が知る自然法という考え方もある。そこから、人が定める人定法というものの権威や能力が規定されなければならなくなるのが、この世での生き方というものだろう。その人定法の変更は如何にして可能か、そこにも神学的な根拠付けがなされなければならなかった。
後半では、旧約聖書と新約聖書の中にある「法」という、信仰にとってはデリケートな問題がじっくりと検討される。これは現代のキリスト教信徒にとっても、悩ましい問題である。イエスは旧約の律法を破壊したのか。否、成就したのだ。それはどのようにしてか。やはり律法では、もはや顧みられなくなったものもあるだろう。他方、什一献金のように、旧約聖書を根拠に主張する教会の規定も多々あるのだから、どれを採用しどれを廃棄するか、といったことは、実際の教会運営上でも、聖書的問題であるのだ。
それらを一つひとつ検討した後、本書は「恩寵」というテーマで結ばれるように構成されている。これも、いまなお問われるべき問題であると言えよう。そういうわけで、私たちのいまの信仰生活のためにも、これらは一つの学びになろうかと思う。もちろん、ここにあるのは抽象的な議論ばかりであるし、時代的な影響もあるだろう。トマス・アクィナス自身の理解が正しいという保証もどこにもないのであるから、鵜呑みにするのは禁物である。それでも、私たちは問うてよい。学んでよい。聖書をどう読むとよいのか、偉大な先人がこうして実践してくれた作品を、リスペクトすることは、決して人間について行こうとする企みではないのだ。
次の巻は、本年中に発行されるのかどうか、楽しみだ。

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