本

『神学のよろこび』

ホンとの本

『神学のよろこび』
アリスター・E・マクグラス
芳賀力訳
キリスト新聞社
\4000+
2017.4.

 これは新装増補改訂版といい、2012年の第三版の翻訳である。内容に少し変化があり、叙述も多くなった部分がいくつもあり、用語の変化も多少あるという。そもそも第二版に合わせて翻訳を進め、それができたとき、原典の第三版が出たという情報が飛び込み、慌ててまた訳し直したのだという。ご苦労な話である。
 大学のキリスト教概論のテキストとして用いる意味からも、訳者にしてみればそれはむしろ良いことであったと言うが、肯ける。この本がサブタイトルのように、はじめての人のための「キリスト教神学」ガイド、というのは誠にそうであるし、その理由や事情、内容については、著者自身が最後に触れていて、誠意を覚える。どういう点で優れどういう点で明らかに至らないのか、はっきり示してある。だから、次のステップに進むためには、またどのような道を通ればよいのか、も案内してある。学生に対して、また神学の初心者のために大変親切である。
 著者自身、一旦信仰の世界を捨てるようにして飛び出したものの、神に連れ戻されるようにしてからは、福音への研究を怠らず、またそれを説明することについて才覚を如何なく発揮し、多くの学生や信徒の歓迎を受けている。私もまたその一人である。
 しかし、だから生温いか、というとそんなことはない。それはこれより進んだ書にいくらかでも触れたことがある人にはよく分かるであろう。どんなところに立ち、眺め、それを、これから山に登ろうとする人の立場に立って分かりやすい言葉で、必要なことをきちんと伝えようと努めているか、実に教育的である点、感動すら覚える。
 神学は「知解を求める信仰」であるという。キリスト者が知性をもって、真理の弟子となることだと先ず告げる。その射程の中で、キリスト教の基本的な考え方を探究することを目的としているのだそうだ。神学の最も基礎的な知識に導くことだけを狙っている。余計な議論がない。ストレートである。だから、ただ読むだけで筋道が明解なのである。
 進展する章は、信仰・神・創造・イエス・救い・聖霊・三位一体・教会・サクラメント・天の国、という具合である。大学生ならばどの学部であろうと学べよう。日本語がまた実にこなれた読みやすい訳になっており、学生はもとより、高校生以上ならばほぼ問題なく読んでいけることだろう。もちろん、そこに聖書への一定の理解や信仰があることは前提であるが、信徒の学びとしてたいへん有効であることは間違いない。
 十年余り前にすでに出版されていたのが、増補されて出版されている。再版であれば古書でも問題はないのだが、これに限っては、新しいのを求めるべきである。原著で数十頁が増えているというし、日本語訳でも恐らく90頁ほど増えている。中に一箇所、最新の版では削除されている段落があったが、内容がよいので訳者の責任で旧版のまま残している、という事情が記された箇所があった。こういうところまで訳者はよく考えてくれたものだと感謝したい。
 原著の題には「よろこび」なる語はない。だが、これは訳者のヒットであると言えよう。神学は楽しい。喜びである。信徒であれば、これを学ばざるをえない。そこまで言ってしまってみよう。




Takapan
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