本

『震度7』

ホンとの本

『震度7』
NHKスペシャル取材班
KKベストセラーズ
\1430+
2016.11.

 副題が「何が生死を分けたのか〜埋もれたデータ21年目の真実〜」とあり、これが内容を的確に示している。
 阪神淡路大震災から21年目、テレビのNHKスペシャルで放送もされたが、本になると、取材背景や、紹介されなかったデータやエピソードなどもまとめられている。放送時間の制限の中でカットされたものも出てくるわけだ。
 阪神淡路大震災。もう過去のことのようにさえ見え、それよりも東日本大震災のほうが現在深刻なのだという捉え方もある。だが、20年経ったところで、癒えないものは癒えない。むしろ、実は謎であったことが、この取材の中で次々とはっきりしてくる。それは、ビッグデータの利用である。当時はデジタル技術が今の様子と違っていた。手書きの資料がそのまま眠っている。それを一つひとつ起こして、データとして入力していく。それを集計してビジュアルに資料の意味を表現する手段が整いつつある。そうして、亡くなった方々の事実を集めてみると、驚くべき結果が明らかになった。たとえば火災が同時に各地で発生していることなどだ。また、地震後即死であった方が大多数を占めるというわけてはなく、実のところ多数の方々は、数時間は生存していたという事実である。その間、ではどうして助けられなかったのか。そこにいくつかの事情が伴うのは間違いないにしても、多数の生命にとり共通の原因が浮かび上がってくる。こうした様子を、語りかけるように、つまりルポとして、集約されたのが本書である。
 テレビでなるほどと思って見ていたが、ここで「通電火災」という言葉を知った。ライフラインとしての電気が流れるようにしたところ、各地で火災が同時多発しているのだ。その現象は比較的簡単に実証できる。また、救助が遅れたのは、渋滞のせいだった面があるのだという。安否の確認に出向いた自家用車が多数道を塞いだ。しかも、亀裂の入った道路で歩道に迂回するなどゆっくりした作業がひとつ始まると、後続の車がとてつもない渋滞に巻き込まれてしまうのである。こうしてやきもきしながら救助隊が駆けつけた時にはすでに遅く、また実際どこから手をつければよいのかも分からず、手遅れとなった方の遺族からは叫び罵られる中で土下座さえしたという救助隊員。決してそのような目に遭うような方々ではなかったはずなのだが。
 福音歌手の森祐理さんはこの震災で弟を亡くしている。テレビでもその取材があったが、それはテレビなどへの露出について抵抗が少なかったのかもしれないし、彼女の信仰のゆえであったかもしれない。弟さんのことは、評判のラジオ「モリユリのこころのメロディ」でも語られたことがある。本書にも、数ページではあるがそのことが載せられている。
 震災から、せめて学ばなければならない。自分にいつ襲いかかるか分からない問題として、地震や震災、そして様々な形での災害を捉え、基礎的な知識を得てから、行動を弁えるようでありたいと願う。自分本位でないことの意味を知る知識がまんべんなく人々に及ぶことが望ましい。そのためにも、分かってきたことは度々伝え、教育し、それが当然であるというところにまで広めなければならない。そのために何かできることがあれば、ささやかなことでも、してみようと思っている。
 震度7は、その後、この本が出版された今年、熊本をも襲っている。こちらは、震度6以上が七回も起こるという異常さである。地震災害のたびに、かつての悲劇が少しでも減るよう、何をどうすればよいかという知識が、常識になっていくことを願って止まない。




Takapan
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