本

『すべては「単純に!」でうまくいく』

ホンとの本

『すべては「単純に!」でうまくいく』
ローター・J・ザイヴァート+ヴェルナー・ティキ・キュステンマッハー
小川捷子訳
飛鳥新社
\1,600
2003.3

 大阪人の財布は、東京人のそれに比べて、格段に重いと言われる。レシートからどこぞの店のポイントカードや会員カードなどならまだ実用的でましなほうで、やたら不要になったメモから薬、カレンダーなど、「なんぞ役に立つときがくるかもしれん」という感覚で入ったままになっているという。なにも、大阪人を嗤うつもりで言っているのではない。関西に住んでいた私は、いつの間にかその感覚で過ごしている。財布は、どんどん膨らんでゆく。クレジットカードは一枚しかもたないのに、図書館のカードをはじめ、割引券やら栞など、しょうもないものが場を占めている。
 それは無駄だと分かっていながら、そこに居座り続けているのである。
 この本は、そうした問題に光明をもたらす。合言葉はSimplify。単純化する、という意味である。著者は、時間管理の専門家。二人目はイラストレーターで、洒落た味を出している。元牧師だそうだ。十分に共感をもちながら、イラストを描いていったに違いない。
 単純化するというのは、実はたいへん簡単なことである。だが、誰もがそれを望んでいながらなかなかできないという意味では、最も難しいことかもしれない。その道は七つの段階を踏むという。まず、物。山のようにガラクタを保管している私としては、この時点で失格である。次に、お金。これについては、単純というより乏しいわけだが、心理的にはそこからどれだけ自由になっているかどうか、怪しい。さらに、時間、健康、人間関係、パートナーと段階は進み、最後に、自分自身に至る。ここまでくると、シンプルな自分の姿の中に、かけがえのない人格が満ちているというのだが……。
 減らせば減らすほど豊かになる。これが原理であり、そのことは「脱」という言葉が象徴しているという。
 ここに書いてある一つ一つの当たり前のことは、それがもし実現されれば、ほんとうにどんなにかすっきりすることだろう。生活の中にある無駄は、ふだんそれを無駄だと思いたくないように私たちは思っているけれども。
 こんなふうに紹介していくと、この本が恰も消極的に否定ばかりを書き連ねているかのように受け取られるかもしれない。そうではない。むしろ、積極的に、幸福になるにはどうすればよいかを提供しているのだ。その意味では、パートナーについての章で指摘されている聖書の中にある真実の言葉が面白い。
「夫たちよ、妻を愛しなさい。妻たちよ、夫を敬いなさい」
 微妙な言い回しの違いが、幸福の要点をよく掴んでいる。どんなふうに? それはこの本を読んでのお楽しみといこう。なにしろ、聖書の効用の一つが、私たちの人生を豊かにすることであるとするなら、間違いなくこの本は、その目的のための実用的な案内になっているのだから。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります