本

『新米パパのための妊娠・出産』

ホンとの本

『新米パパのための妊娠・出産』
足立智昭・佐々木和子・中里佐智代
中央法規
\1,200
2003.5

 コロンブスの卵という言葉がある。後で考えれば、どうしてこんなことに気づかなかったのだろう、というときに使うことがある。妊娠や出産についてのアドバイスを載せた本は多々あるが、この本のような立場からは、なかなか本が出てこなかった。たぶん、売れないと思われていたのだ。出産についての本を、男性が買うなどとは考えられない、という思いこみのもとで。
 妊娠や出産ということについて、それを「抱えた」女性の立場についてのアドバイスだけを重ねていくことによって、女性はますます閉じられた世界に追い込まれていく可能性がある。出産は、直接するのは女性かもしれないが、夫が関わらないというのは、現代では考えられない事態のはず。だのに、夫が、妊娠した妻をどう理解すればよいのかは、誰もまったく教えてくれないし、教えようともしなかったのである。少なくとも、妻の母親がその道について妻に対して教えるようには。妊娠という事柄についてではなく、妊娠した妻についての説明が客観的になされてこなかった面がある。
 ひどい例だが、あるネットのサイトのことだ。夫が妊娠にどう対処するかという知恵を紹介している場面で、性生活はどうなるかということばかり延々と綴ってあるのがあった。もうこうなると、論外としか言いようがない。
 たとえば、妊娠中の女性は、明らかに記憶力・集中力が低下する。この事実は小さいようだが、夫が心得ておくべきことであり、生活の中でしけっして小さなことではない。だが、このことさえ、一般に注意が喚起されているとは思えない。
 夫も子育てに参加すべきだ(そんなの当然じゃないか、と思われるかもしれない)と叫ばれているが、それは逆に、夫が子育てできていない事実を物語っている。では、夫の子育てとは何か。夫がミルクを作ることか。入浴させることか。おむつを換えることなのか。たしかにそれらも必要だろう。この本にも、それらの仕方が分かりやすく説明されている。だが、妻の、母親としての仕事に取って代わることはできないことは明白である。母乳を与えることはもちろんだが、子どもにとり、母親のもつ、心身ともに感じる温もりというものは、父親が代行できない何かを含んでいるものだろう。夫が子育てをするとは、子育てをする妻をどう支え、助けるか、という点に主眼を置く行為であってよいのではないだろうか。その意味で、夫の子育てについて教えてくれる本が、(少)なかった、というわけである。
 もちろん、妻を愛する夫は、こうした知恵を、経験的に知るだろう。誰かに教えてもらわなくても、妻を助けようと目をこらす夫は、自らある程度の失敗を重ねながら、体得していくものだろう。それは正道であるし、それが理想である。だがまた、たとえ愛しているにしても、そうした方面に気づかない男も数多くあるだろうことは、容易に予想できる。父親になって初めて教えられ、成長していくものではあるのだが、とりあえず、妊娠から出産という過程の中では、こうした本が道標となってくれるのはありがたいものである。
 新米でない以上、私にとっては常識化している知識が多かったものの、これだけ記されていれば最初の不安もなかっただろうと思われてならない。また、今見ても、なるほどと教えられることは少なくない。こんないい本が、以前からあればよかったのに。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります