本

『新聞力』

ホンとの本

『新聞力』
青木彰
東京新聞出版局
\1,600
2003.12

 その道では有名な人だとのこと。著者は、東大文学部教育学科を卒業後、産経新聞に入社。数々の業績を経て、退社後、現代文化などの教授として筑波大学に迎えられ、朝日新聞紙面審議会委員のほか、日本放送協会や東京新聞客員など各方面で活動し、発言力をもっている。マスコミ志望学生のために私塾を開いて、人材を教育しているともいう。
 東京新聞に執筆した「メディア評論」のコラムをまとめたのが、この本である。1990年に始まり、13年間に書かれた原稿を整理して提供してある。
 気骨のある新聞記者魂を、そこに見るような思いがする。全国紙と東京新聞とをまな板に載せ、その時期その事件当時に、新聞社がどう反応しどう記事を書いたかを比較検討しながら、新聞にエールを送っている、そういう印象である。
 産経新聞にいたというから、ひどく偏った主張が繰り返されているのではないか、とも案じたが、この著者は、かなり公平な書き方のできる人である。もちろん、その内心ではどう主張したいか、ということはあるだろう。だが、この本で見るかぎり、特別な偏向はないと言ってよい。むしろ、新聞社全体が、どうあるべきか、あのときどうすべきだったのか、を鋭く指摘する。いや、自分自身もまた新聞人として、自戒を込めて語っているような気がしてならない。
 新聞はこうすべきだった、と言うはたやすいが、そこに痛みをもって自分自身の問題でもあるとして発言するのは、簡単なことではない。特別どこの新聞に偏るというわけでなく、新聞というものはかくあるべき、みたいな叫びを静かに投げかけている。そこに、健全な常識ある人を見るような思いがする。
 やや朝日新聞には厳しいかな、という雰囲気が全体に漂うが、バランスそのものは全体的に悪くない。それでも、産経のことは褒めすぎのような感もあり、特に産経抄の筆者については褒めることはあっても批評めいたことは何一つないから、そこはある程度仕方ないのかな、とも思う。新聞は、論理の教科書でもないし、要は新聞記者の魂をこの本で教えようとしているわけであるから、左右云々の主義主張を真っ向から掲げているのではないと考えたい。
 いずれにしても、マスコミというもの、新聞の使命、私たち一人一人が、世間をどう見つめていかなければならないのか、といった問題に、この本はできるだけ誠実に答えようとしているかのように見える。読者として、私たちもまた、その問いかけに答えて、社会の中で必要な叫びをあげていくことができたらよいものだと思う。




Takapan
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