本

『サイン・署名のつくり方』

ホンとの本

『サイン・署名のつくり方』
署名ドットコム
スモール出版
\1600+
2016.9.

 驚いた。見たことがない。事実、そうらしい。サインのつくり方、タイトルそのままである。
 芸能人やスポーツ選手など、サインを求められる職業があるだろうが、それはそれは見事なサインを見せる。本当にど素人がサインを求められたら、拙い筆記になるものだが、デビューしたての有名人でも、サラサラと美しい曲線で、芸術的なサインを書いてくれる場合が多い。近頃では、ラーメン屋の壁に並んでいるのをよく見るような気がする。
 あれは、その道の職に就くときに、自分で考えるのか、というと、とてもそんな暇もないし、才覚もないはずで、だとすれば当然、専門の業者がいるはずだ、ということくらいは、素人目にも分かる。しかし、それが誰であるのか、普通は知らないと言わざるをえない。
 いまやウェブサイトでそれを受け付けてもくれるわけだから、より身近になった。つまり、何も有名人でなくても、自らのサインを求めるということがあって然るべきなのだ。事実、クレジットカードで買い物をすると求められるサインというものがある。あれは、普通に名前を楷書で書くというのが当然だとしか思わないものであるが、サラサラと記したオリジナルのサインでももちろんよいはずである。とくに海外での旅行やビジネスに慣れた人は、その必要性を感じていることと思われる。
 では、プロに頼まなければサインを考案することは不可能か。そんなことはないだろう。だが、しょせんただの人が考えたところで、ダサいデザインになるのがオチである。ならば、コツというものがあるのか。なにかしら、デザインというものについては、教授してくれる本があるものである。本来ならば教える会社がこっそり教えれば仕事になるのに、本を出すというのは手の内を示すようなものであるからどうなのかとは思うが、他方その会社を知らしめるためには確かにノウハウもそこそこ出していくというのが商法というものだろう。だが勇気が要る。ことにこの署名というのは、こんなにも露わにコツを出してよいのかどうか、私は判断に迷う。よくぞ出版してくださったものだ。そして、たぶんこの手のデザインの紹介は、本としては初めてのものではないだろうか。
 説明もたくさんあるが、やはり初心者に分かるというものでもないし、このようなデザインの原則を学んだところで、だから自分のために素晴らしいデザインが考案できるかというと、やはり難しい。結局はその道のプロに頼むようになる、というひとつの筋が想定されているのかもしれない。だが楽しい。なるほどこんなデザインの基本的な考えがあるのだ、サインにはサインなりの美しい原理があるのだ、と知ること自体が楽しい。読者は、結局こういう楽しみを知ることにより、また金銭を払ってでもプロに頼もう、という気持ちになるものであろう。とにかく、関心をもってもらうことが会社としても一番なのだ。
 ところで、私も改めて、クレジットカードに正直に漢字で名を書いていたということへの反省を覚えた。そうなのだ、ローマ字書きでよいはずだし、自分が書いたという証明になればそれでよいのであって、ふだん自分で書いているローマ字筆記のサインを、クレジットカードにも用いてよかったはずなのである。自分なりに考案したデザインがあったのだが、それは実は苗字だけのものであったので、この本を読んで、名前のほうもイニシャルで入れてひとつ改めて考案してみた。本にあるようなカッコイイものではないが、自分としては自分らしくて、それでよいのではないかと思っている。それでも、ちょっとしたデザインの原則を知ることにより、まんざら悪くもないのではないか、と自負しているのだが、たぶんプロから見ればビジネスになれないくらいお粗末なサインであるのだろう。それでもいい。私らしくあるのだし、そこに信仰もいくらかこめられているのだから、IDとしての価値があれば、それはそれで、私なのだ。
 面白い、画期的な本である。




Takapan
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