本

『芝生でいこう』

ホンとの本

『芝生でいこう』
和泉グリーンプロジェクト
悠雲舎
\1260
2010.3.

 東京都杉並区立和泉小学校。
 ここの校庭が芝生に生まれ変わったのは、2002年春のことだった。その前年、あの同時多発テロが起こったときに、工事が始まったのである。そのときから8年。一定の成果が出てきたことから、そしてまた、校庭芝生化運動への声や実際の動きが増えてくる中で、先進校としての和泉小学校内で結成されているこの芝生に関するプロジェクトチームが、この本をまとめ、世に出すこととなった。
 もちろん製本などのプロの手にかかっているわけではあるだろうが、一小学校の内部が企画し内容を決めているはずであることを考えると、実にすばらしい一冊の本であるという印象だ。カラー写真がふんだんにあり、紙質もなかなかよい。何より、その写真の風景がいい。児童たちも多いので、よくぞこんなに瞬間、表情が撮れたものだと驚く。いや、もちろんそこにはプロが関わっているわけだが、一小学校からこれほどの美しいものが出るというのは、羨ましい気がする。
 話はなかなか芝生に入らない。漠然と校庭を芝生にしましょうと言っても、それのメリットやデメリットはたくさん発生する。いざやってみて、こんなはずではなかった、などということになっては、教諭たちにしろ保護者たちにしろ、あまりにもお粗末で愚かである。十分な検討や議論の上に成立したこの芝生プロジェクトであり、そのノウハウめいたものも実に詳しく具体的にこの本には収めてある。これから芝生化を考えようとする小学校にとって、これほどすばらしいお手本はない。
 だから、非常に存在価値のある本となるだろうと思われる。
 そこには、具体的な工事や、いわばハードの面が語られる。また、それをどうメンテナンスするかも説明される。それが人の心にどう働きかけるのか、どんな影響を与えるのか、いわばソフトの面からも検討され、紹介される。様々なQ&Aにて、疑問に思うことが予想され、それへの答えが列挙される。至れり尽くせりの本である。
 8年間を乗りこえ、その間には通常の心配や懸念もさることながら、そこで実施されたコンサートやキャンプファイアーなどについても、そのやり方や問題点などがレポートされる。当時の校長の声もあり、記念誌さながらに作られているのだが、これはぜひ、これから校庭の芝生化を考えている学校の教諭や、保護者たちによってぜひ読まれなければならない定番とすでになったように見受けられる。
 福岡近辺でも、関心をもった小学校が実際にそのように動き出した例がある。しかし、聞くところによると、どうもここの和泉小学校のような深みが見られないという。表向き真似をしてみたものの、芝生が揃ってすぐに手入れの面で怪しまれていることや、その保護者たちとの十分な話し合いやアピールなども、あったかどうか分からないような杜撰さがあるという。
 校庭の芝生化が、必ずしも善であるとは限らない。だが、これをやるからには、そのメリットを大切にしようと考えたのであり、そのためにはしなければならない義務も生じる。つまりは手入れなどである。デメリットについては、それで不都合の生じる人の立場も十分考慮しながら、どちらの意見であるにせよ、突っぱねるのではなく、互いの共感を獲得しながら意見の一致へ向かっていきたいものだと思う。
 2010年、この都市は全国的に酷暑に見舞われた。芝の手入れも大変だったことだろう。どうもこの本を見終わると、すっかり洗脳されそうな気配さえするのであるが、それよりも、教育機関として、一つのことに向かって作り上げていくという有様に、大きな意味を見出すチャンスにもなりえたのだ、ということをたたえたいと思った。もしかすると、教会というものを建て上げていくとき、そしてそれはイエス・キリストを土台としていくのであるが、そのときに感じるものと何か共通したものが、このプロジェクトには潜んでいるのではないか、という気もしてくるのである。




Takapan
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