本

『種子たちの知恵』

ホンとの本

『種子たちの知恵』
多田多恵子
NHK出版
\1470
2008.5

 タイトルの「種子」は「タネ」と振り仮名振ってある。種は、子どもである。植物の未来を担っている。その種は、なんとなく次の世代を自動的に生み出すようにイメージされているかもしれない。
 植物のひとつひとつに、種のドラマがある。種は、時に風により、時に虫により、そしてまた時に自らはじけるなどして、飛ばされる。この本では、そうした種の飛ばし方について、ひとつひとつの種類に実に詳しい解説をつけながら、ゆっくりとした時の流れの中で、終わりまで向かっていく。
 理学博士としての著者は、実に詳しく愛情を伴いつつ、植物の謎を解き明かす。その種はどうやって次の植物を生んでいくのか、図や写真を多用しつつ、教えてくれる。
 このように、種をどう次の個体へ育てるかという問題は、生物にとり、最大の目的である子孫繁栄のために切実な問題である。種は、さまざまな衝撃や障碍から守られるように、数え切れないほどの方法で生きるための途を作っている。生物は多様性豊かであるというが、種にしても、なんとか子孫を生かし育んでいくことができるように、様々な工夫や個性をもっているのである。
 私たちもここから学ぶことはできないだろうか。つまり、これこそ「生きる力」なのである。私たちが命を大切にするというのは、こういう植物のまさに必死な営みから学ぶのでなければ、なんと抽象的なものに過ぎなくなることであろう。
 生きるために、生き延びるために、植物は何を有しているのか、そのすばらしさに感服する。種は、手品にとっても命だが、私たちが心の上で生きていくためにも、十分必要な素材となっている。
 そこにはタイトルのような「知恵」など、実はないのかもしれないが、植物をもまず作った主の御手は、知恵のなすがままに、十分な配慮を以て、種のさまざまな性格を決め、設定しているものだと感じる。種子に知恵があるというよりは、その創造者だろう、と私などは思うが、ともかく見ていて厭きない、種のありさまである。
 へたな人生論よりは、よほど人生を教えてくれる、とも言うことができよう。




Takapan
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