本

『盾(シールド)』

ホンとの本

『盾(シールド)』
村上龍
絵・はまのゆか
幻冬舎
\1575
2006.3

 書店で見て、早く図書館に入らないかなあ、と思っていた。
 大人のための、絵本。
 たぶん、これを文章だけで読むより、ずっと味が出てくる。開いたすべての頁に見える、たぶん水彩のムードあるイラスト。『13歳のハローワーク』に続いて、村上龍の本のよいお仕事をなさっている。
 心の中の、デリケートな部分を守るための、シールド。小学生のコジマとキジマの二人の男の子は、「名なしの老人」から、シールドというキーワードをもらい、それについて真剣に考える。この意味が分かったらまた会おう、と約束しつつ、二人はだんだん離ればなれとなっていく。
 二人の性格や考え方が、時に対照的に描かれるとともに、その立場や考え方が交錯していくあたり、実にリアルである。単純な二元論で語ろうとしていない作者の立場をよく表している。
 その成り行きをここで明かしてしまうには惜しい。どうなるのだろう、とハラハラドキドキしながら、読者の心をわしづかみにしたまま、最後まで引っ張っていってくれることだろう。
 ストーリーというよりも、この内省の部分を、ずっとねちねちと語り続ける。それは、むしろ優れた文学的手法なのだろう。細かな描写もあまりなされないままに、二人の人生が半分すぎていく展開も、絵本に相応しい。
 この本から、結論は導かれない。また、この本を使っても、満足な議論は得られないことだろうと思う。だがこの本の中には、読者その人に向かって、この「盾」とは何だろう、と鋭い問いかけが――時に爪を立てて――ある部分が、確かにある。
 若い人が、明治期の文学作品を読んでも共感を覚えないような時代になった。そもそも明治の文章など読めないだろうし、読む気も起こらないものだろう。そんな時代に、村上龍は、一種の実験であるかのように、この『盾』を提供してくれた。
 中高生にたとえば、ぜひ呼んでみてもらいたいと願うと同時に、大人、とくに中高生などの親にも、お薦めしたい。




Takapan
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