本

『セックスレス――そのとき女は』

ホンとの本

『セックスレス――そのとき女は』
亀山早苗
中央公論新社
\1470
2012.11.

 ルポルタージュである。幾人の方の声がここに記録されているのか、分からない。いろいろな人の実例が並べられている。ひとつひとつがドラマであり、人生のシーンである。いや、これは人生の一部を切り取ったというものではない。長い人生のかなりの部分と、そしておそらくは今後の残りの人生も支配するであろうような、大きな要素である。
 一カ月以上性交渉が、特別な事情がないのにない、という定義に当てはまる人が、どのくらいの割合でいるのか、それは調査を信用すれば、半数近くあるらしいというのだが、こういう調査にどれほどの信用性と厳密性があるのか分からないし、そもそも一カ月ということにどれほどの重みや意義があるのか、またそれは生活の事情をどう反映しているのかなんとも一概には言えないだけに、こうした数字を大きく捉えることに意味があるのか、よく分からないというのが私の正直な声だ。
 しかし、この本は、そういうところをうまくかわしている。何も学術的にするのがすべてであるはずはないのだが、一定の結論や主張のようなものを、ルポといえども必要としているように考えてしまうのは、浅はかだろうか。そもそも結論などがないのが、ルポなのだろうか。いや、この本とて、結論めいたものがないわけではない。しかし、特定の方向に行くべきだとか、こうしたほうがよいのだとか言うお説教めいた調子はどこにもない。それぞれに共感しつつ、それでいてそれに棹さすことで加担するというのでなしに、冷静に人々に向き合い、取材している。そのあたり、ルポに長けた著者ならではなのだろう。また、恋愛や性などについて深く考えている故に、決してこの本自体が思いつきや売らんかなの姿勢で作られたものではないことも確かだ。それでいて、何か思想的な要求もないし、特に社会的に何かを動かそうなどというわけでもないようだ。ひとりひとりが、個人的に向き合う問題であるとして、それでいて、閉じこもり縛られているのではなくて、何か一歩を踏み出して変わることを応援したい、という思いであるようだ。
 そもそも、この本が出て、間もなく放送されたテレビドラマにこの著者は関わっている。『幸せの時間』という昼ドラであるが、これがかなり社会問題になった。性描写がきつく、クレームも多かったというのだ。製作した東海テレビの関係者が処分されているが、全国放映したフジテレビには何の関わりもなかったかのようにスルーされているから、騒動を見ていてやや不公平感が募る。それも、放送が終わって2ヶ月もするころに問題視されるというのだから、何か曰くがあるのか、それとも問題になるかどうかかなり慎重な捜査や検討があったのか、裏事情というのはよく分からない。このドラマは元々或るマンガが原作なのだが、その作者自身、テレビドラマになるなど仰天していたというような具合らしい。それを、このセックスレスの本の著者がノベライズして出版しているのだ。
 他の著書のラインナップを見てみると分かる。とにかくそういう、昼ドラあるいは昼メロになる、あるいはそれになれないほど過激だともいえる、性的な問題がひしめいている。それだけ、表向きにできない問題だという故であれば、こうしたルポの存在意義も大きいだろう。誰にも言えず、悶々と胸に苦しみやもどかしさを覚えて隠している人が多々あるとすれば、そのはけ口とまでは言えないにしても、何かしら味方がいるのだとか、同じように考えている人が少なくないとか、何かしら慰めや力になる本として、大いに助けになっていると言えるのだろう。
 決して、描写がエロチックであるというわけではない。だが、これまで言うことのできなかったことが言われている、というような意味では、誰かの心を支えるために役立っているだろうと思う。そして、タイトルからも推測できるかもしれないが、これは、女の立場からのものである。夫が自分を相手にしない、というケースについての調査なのであって、女の側が応じない、という場合とは違う。男の側に裏切りがあって、そのために女のほうもできなくなった、という例は記されている。そのようなとき、なにげなく他の男のところに走るという例がいくつかあることもここに書かれている。妻はどんなことがあっても自分の所有物で、自分がどんなにひどいことをしても、よそへ流れない、などと男が考える時代はもう終わったのだろう。だがそう思っている故の実例が、決して珍しいものではないことも、この本を見ていると分かる。
 タイトルからして刺激的でもあるので、電車の中で気軽に読むというわけにはいかないだろうし、子どもの目に触れるのもよろしくないだろう。取り扱いはなんとも慎重に願いたい本でもある。表紙のデザインはそんなことはないのだが。




Takapan
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