本

『戦後日本史の考え方・学び方』

ホンとの本

『戦後日本史の考え方・学び方』
成田龍一
河出書房新社
\1260
2013.8.

 これは「14歳の世渡り術」というシリーズの一冊である。常々、この世代の読める本が少ない、と私は思っていた。というのは、かつては少し背伸びをして読もうとするものだから、中学生でも、一般の新書を読んでいたし、また読もうと努める動きがあったのだが、近年そういう精神が絶滅に瀕している。とにかく本を読まないというのはもちろんのことだが、読もうとしても、読めない事態に陥っている。読めないから読もうとしない、面倒くさい。語彙も増えないし、そうするとまた読めない、読まないのループに入る。
 これを打破するには、中学生が手に取るに相応しい読み物、しかも小説云々ではなく、世の中を広く知り、あるいは考えるための材料が必要なのである。もとより、受験勉強やクラブ活動、そして電子機器への没頭などで、読書にかける時間が取れないなどの事情はある。しかしそれ以上に、読書は、語彙を増やし、思考を促す。思考は言語によってなされる以上、言語が貧困だと思考もできなくなる。人間社会は、動物的直感だけでは乗り越えられないようになってしまっており、また、ずる賢い者たちに操られるのが現実である。
 岩波ジュニア文庫がその先駆けであるかのようでもあるが、ここへきて河出書房新社も頑張っている。少しでもうまく展開することを願う。
 手に取ったものは、「歴史ってなんだろう?」というサブタイトルの本。地味なデザインと堅いタイトルで、さて中学生が開いてくれるかどうか心配であるが、逆に大人が、14歳云々に関係なく読みたい本だとここで大いに宣伝したい。
 これはいつもの私の主張だ。青年向けの本を大人が読むべきだ。なにせ、一読してすべてを理解できる。それは、知識がそこそこあるからでもあるが、書き手も、青年に分かるように書いているからだ。つまり、物事を「分かりやすく」書くというのは実は難しいことであって、だいたい自分でも分かっていないことを著者は「難しく」書いている場合が多いのだ。そこへいくと、こういうのはごまかしが利かない。正しい内容を適切に書かなければならない。これが難しい。これをクリアしている本なのだから、内容的にも実は洗練されているのだ。ただ、子ども向けに触れられなかったり、わざと省略していたりするところもあるわけで、そこはおとなが上手に行間に、「書いていないこと」を読みとればよいだけのことだ。
 この本に、私は誠実さを感じる。教科書の歴史とは何か、それは著者が歴史教科書の執筆にも携わっているというから内実を詳しくご存じでもあるわけで、いわば本人が明かしているようなものなので、おとなでも読んでみてはっとすることがある。
 そういうところから歴史観という話に入り、戦後からこの本の本編が始まる。学校の歴史の授業ではしばしば割愛されかねない箇所である。入試の中で薄いと考えられているのかもしれないが、実のところ大学入試になると訳が違う。中学生は、そこのところも勘違いしてはならないだろう。
 それはともかく、戦後の歴史は、まさに今の時代の根柢だと言えるわけで、この歴史の理解は、今のニュースとこれからの時代、つまり自分がおとなになっていくその時代の背景や理由というもの、事件や外交、経済にわたり関わるものなのであって、いわば公民分野の基本でもあるし、自分がやがて投票などの形で参加する政治を決してする学びになっていくことになるのだ。
 一言で言うと、私は著者に誠意を感じる。
 私は必ずしも歴史に詳しくないし、政治にも疎い方だ。誰それの政策基盤とか政党関係とか、企業との結びつきとかいう、「おもしろい」世の中の話題には、あまり興味がない。だが、無関心でいるわけではない。だから、8月15日というのは日本を統率するためのうまいイベントだと言えるのではないか、とか、沖縄が如何に苦しめられているか、さらに言えば私たちが如何にいじめてきたか、いじめているか、そしてそのことに何の意識もないか、とかを考え、またひしひしと感じ、胸を痛めていることしきりである。
 著者は、これらの問題を大きく、深く扱っている。
 もとより、15日のほうは、一応その問題の背景を述べてはいるし、最後にも再び触れるのだが、天皇を宗教的にうまく配置したような効果については、対象が中学生であるためか、議論を深めてはいない。それは仕方あるまい。大人が深めるべきだ。それよりもちゃんとそのことを紹介している点を評価すべきだろう。そして、沖縄のことはかなりの頁を割いて、具体的に説明を加えており、沖縄について著者がただならぬ関心と共感をもっていることが読みとれる。それでよいと思う。
 多くの頁に、用語解説が加えられるなど、読者の疑問に答える、あるいは基礎知識を増すための配慮がよく整っている。図表による解説も適切に挿入され、分かりやすい。語彙もよく練られており、さすが教科書執筆者だと唸るほどである。これでも実際の中学生には難しいだろう。なにせ自分が経験していない時代や内容である。聞きかじるというような理解に留まるのはやむを得ない。だが、親ならどうだろう。だいぶ分かるのではないか。祖父母ならばまさに生きた時代の振り返りである。より具体的に身にしみた問題だと言えるだろう。よかったら、家族の中でこれが共有され、話題にされたらよいのではないかと願わざるをえない。この本をきっかけにして、家族の中で時代や社会を話し合うということがあれば、どんなにすばらしいだろう。だからまた、これを子どもの本だとしてしまうのはもったいないのである。
 最後に、もったいないといえば、索引がほしかった。一読して終わるにはもったいないのである。また調べたいのだ。索引があれば、また開かれる。再び味わって読める。頁の制約問題などと言わず、わずか2〜4頁でも、索引が作れなかったか、と残念である。
 また、これは無理かと思うが、価格をせめて1000円にもっていってほしかった。いや、それほどに、これは中学生に、いやいや、高校生でいいと思う、若い世代にぜひ読んでほしいと私は思ったのである。




Takapan
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