本

『聖書の想像力と説教 説教塾ブックレット8』

ホンとの本

『聖書の想像力と説教 説教塾ブックレット8』
並木浩一
キリスト新聞社
\1500+
2009.9.

 何冊か読んでいるシリーズ。どれも多くのことを教えられる。今回求めたものは、タイトルからすると、やや地味な気がしていたが、とんでもない優れものであった。
 一冊まるごと、並木浩一氏が語っている。その講演における質疑応答も掲載されており、加藤常昭先生をはじめとした説教塾のメンバーの鋭い質問が、講演者の言い足りないところも深く吐露させる役割を演じているため、さらに実りの多い書となったと思う。
 巻末には、講演当時も配付されたレジュメがあり、これがまたありがたい。話の要点がよく分かるようにまとめられているのだ。
 こうして、たいへん充実した一冊となっているため、説教というものについて考えてみたい方は、呼んで得るところがたくさんあるはずだと確信する。
 並木浩一氏は、旧約聖書の権威ともいえ、とくにヨブ記についてはいくつもの著書がある。そのため、ヨブ記についての突っ込んだ議論が展開するかと思いきや、それは匂わせる程度に抑えている。そこが慎ましくてまたよい。しかし、議論の背後に寄り添うようにしてヨブ記が流れているようにも思えた。
 必要なことだけをそこで取り上げ、とくに創世記の翻訳や解釈の問題については、重要な視点を私たちに提供してくれる。いや、その他引用される聖書の解説には、目を開かれるような思いの連続であった。アモス書もそうだし、見ることと見られることとの構造は、もっと普遍的に捉えるべきであることも強く思わされた。
 こうなると、聖書の優れた解説書というように受け取られる方もあるだろうが、本書はあくまでも「説教塾」での話である。これは教会で説教がなされるということ、また人がその説教を聞くということ、そこで何が始まるのか、どこへ向かって出来事が始まるのか、そうした説教が力となり、命となることが中心的なモチーフになっていることは間違いない。
 そうした語りという場においては、今回の中心概念「想像力」というものは、そうそう先頭に掲げられるものではなかったはずだった。だが、それが如何に重要なものであるか、それを心に刻ませるために与えられたこの講演とその記録は、神の言葉を語り、また受けるという現場において、記念碑的な標となるのではないかと私は思った。
 哲学的な概念、たとえば「シニフィアン」と「シニフィエ」という分け方も助けとしながら、神の原事実そのものを体験できないままにも、それを受ける私たちにとっては、想像力というものが絶対要件になってくることを説き明かす。
 本書で味わって戴きたいためにここで議論を紹介することは差し控えるが、出エジプト記の中に二つ、大きな注目点があることが示されている。散漫にあれもこれもと見せるのではなく、ここぞという点において突っ込んだ問いかけをもたらし、それを読者の心に驚きという形で刻ませてくれるのは、むしろ快感である。こうした語り方に、私は憧れる。
 概念と言うと「メタファー」と「メトニミー」についても、いささか単純化しすぎではないかというほどに峻別していたが、だからこそ私たちは理解がしやすくなる。私のように理解の鈍い者には、このような説明が非常に助かるものである。そのとき「想像力」と「構想力」とが分離されているが、私たちの中でどれほどこれが分かれているのかどうか、はまた別問題であろう。
 一旦切り離して捉え、また総合していく、その働きを目指すのでなければ、私たちは無闇に分けてしまうべきではない。だが、分けたが故に見失うものもあるかもしれない。本書の観点はこれで十分であることは間違いないのだが、これがまた構成されて「いのち」へと結びつくような展開が、これを受けた私たちが次に求めていくべきものであろうかと思う。ともかくここでは、説教者にとり必要な想像力、それが現実になっていくのだということへの確信が、強く求められていたということでよいのだろう。
 聞く側が想像力を働かすことも、もちろん必要である。私はむしろそれが日常である。説教者の意図は失礼ながら無視しながらも、そこから自分の中で神との関係の内で見えてくるもの、変えられていく自分というものを感じながら説教を聞いている。しかし、もちろん語る側においても、神の言葉を語る以上は、それが現実となるのだという信仰を伴いつつ、想像力を働かせて語るのでなければならない、という、語る側のための戒めが、この本には強く感じられるものであった。それでよいと思う。そうでなければならないと思う。それがあまりにもない、説教者と呼ぶことが到底できない者が、少なからぬ教会で毎週語っているというところに、いのちのないキリスト教世界のありさまが証拠立てられている現状を、私もまた憂うのであるから。




Takapan
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