本

『一度読んだら絶対に忘れない 世界史の教科書 宗教編』

ホンとの本

『一度読んだら絶対に忘れない 世界史の教科書 宗教編』
山崎圭一
SBクリエイティブ
\1500+
2022.2.

 福岡県の高校の教諭ないし講師。YouTubeで歴史の授業の動画を配信を所望され、やってみたところ評判がよく、ついには参考書にまで至った。我が息子もそのひとつを読んで、ひたすら読み込んで、歴史をものにした。
 今回、話題を宗教に絞ったものが発行された。
 著者も記しているが、歴史の授業をしていると、どうしても宗教の話題に触れなければならない時が、幾度もやってくる。そのたびに、分かったような顔をして話し、また聞くという場ができるようにもなるが、宗教への考えは一人ひとり異なる。妙な偏見を与える発言は慎まなければならないし、そもそも教師の方が無理解であったら、あまりに薄っぺらい説明になってしまう。高校ではそういうわけにはゆかない。
 宗教について無知な国民だとも目されるこの日本。歴史にしても、一度しっかりその宗教について理解しておけば、政治や経済についても、すんなり理解へと進めるはずだ。そういうコンセプトで、一度宗教だけについて学ぶ機会をもったらどうか、ということのようである。
 そもそも人類にとり「宗教」とはどういうものなのか、どうして生まれたのか、そうしたところから説き明かす。もちろん相手は高校生である。高等学校とはいえ、人生経験が豊富であるわけではなく、通り一遍の説明になることは仕方がないし、またそれはそれでよいのではないかと私は考える。まずは考えの枠組みをつくることが必要だからだ。
 漠然とした宗教心のようなものが、遺跡などから分かる点を押さえておき、シュメールや古代エジプトなどに心を向ける。アステカとインカ、ギリシアからローマとくれば、古代の準備ができたことになるだろう。
 そこからゾロアスター教に入るのは斬新だったかもしれないが、確かに説明にあるように、他の宗教の「出発点」になったと見られる側面もないわけではない。文明の表で活躍したものではないかもしれないが、歴史の陰でナイスなアシストをしていると言えるだろう。
 そもそもどのような宗教なのか、信仰生活はどうなのか、時代とともにどのように移り変わっていったのか、歴史のどの場面で影響を与えたのか。こうした視点を、それぞれの宗教に当てはめながら、解説は続いていく。
 ユダヤ教の解説は、旧約聖書を説明するためではなく、世界史の中にどう影響を与えていくのか、という点であろう。ディアスポラとなってからの歴史ももちろん説明し、中世における居場所や、近代にオランダやポーランドの寛容政策によりユダヤ人が多くなったこと、そのためにまた、ナチスの迫害によりそれらの国の犠牲者が多かったことなど、なかなか縦横に観点が走る。もちろん建国やパレスチナ問題まで語り、それにより現代の問題にもきちんとリンクする。宗教というものは、このように学ぶことがなるほど好ましいようだと気づかされる。
 この調子で内容に触れると際限がない。続いてキリスト教。推測に過ぎないが、ご自身で聖書をよくお読みというわけではなさそうに感じる。それでも、さすが歴史の先生である。聖書の語るところをよく学んでおられ、語り口も上手いものである。これは西洋史の中心になるので、もうその後の歴史を全部辿るような勢いであった。
 興味深いのは、三大宗教などで満足しない著者の力だ。次がマニ教、イスラームはもちろん扱うが、ヒンドゥー教も大きく扱う。人口からしてもインドを抱えるために巨大な宗教である。歴史の中でも影響は実に大きい。それは、ジャイナ教にも光を当てるようにもなっていく。
 仏教は当然だろう。しかしインドとくればシク教にもちゃんと場所をとっているところもありがたい。その後は、儒教、道教と続くが、中国での微妙な宗教の位置などにも話題が飛ぶのもよいものだ。
 最後は神道で、日本の文化への眼差しも養う。「宗教」という意識をもたず、自然に何か「信仰心」のようなものがあるという、不思議なスタンスに立つ日本の宗教土壌に気づかせるはたらきをもっていると思うが、やはり国家神道という曲者については、きちんと釘を刺しておかなければならなかった。決して政治的意見を告げようというつもりはないように見受けられるが、いまここから日本にいる者たちが、どのようにこれからの時代を生きていくのか、つくっていくのか、一人ひとりに課題が投げかけられていることを意識しなければならない。
 どこかで「宗教」を客観的に見るための素養が必要である。それでいて、自分はどうするか、それも自分に対して問うようにしたいものである。宗教についての教育が決定的に欠けているというのが、私の教育観のひとつである。本書で終わりではない。本書が入口なのだ。ここから、やっと若い人たちの精神世界の旅が始まるのだ。




Takapan
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