本

『要約・世界の宗教文学13篇』

ホンとの本

『要約・世界の宗教文学13篇』
立松和平監修
佼成出版社
\1470
2004.7

 殆どルポライターのように活動しつつ小説を組み立てる作家のようなイメージのある立松和平氏は、実はかなり仏教に造詣が深いらしい。幾つもの作品を手がけている。また、田中正造についての作品もあることから、キリスト教についても調べているようだ。人間の真実のすがたとして、宗教というものに強い関心を示しているといえるだろう。
 今回、日本の宗教文学のピックアップも姉妹編として出されているが、私が手に取ったのは、世界編。もちろん世界の宗教といっても様々な宗教があるはずだが、この書ではキリスト教文化圏に限られている。いわゆる、世界の名作として普通に伝わっているタイプの小説ばかりである。イスラム文学について論ずるまでは、立松氏は届いていないようだ。
 専ら、その小説のあらすじが記されている。もちろん、作者の紹介と、最後に立松氏のコメントが短く入っているところが味付けであるが、その他は、一作品あたり十数ページを用いて、作品全体のストーリーを知らせてくれている。このあらすじの説明が、実にうまい。これだけで十分読み応えのあるものとなっており、その点では物足りなさを感じない。忙しい現代人には、これくらいの濃さで文学を教えてくれることも必要かもしれない。
 作家の国別にまとめられており、収められた作品は『リア王』『クリスマス・キャロル』『サイラス・マアナー』『幸福な王子』『緋文字』『聖ジュリアン伝』『二人の友』『星の王子さま』『罪と罰』『復活』『若きウェルテルの悩み』『盲目のジェロニモとその兄』『クォ・ヴァディス』の13篇である。
 私としては、読んだことのあるものや、読み尽くしてはいないがほぼ知っているものもあったが、全く知らなかったものもあった。この中で、『サイラス・マアナー』と『盲目のジェロニモとその兄』にとくに感動を覚えた。ジョージ・エリオット作の前者は、明らかに信仰復興を動機として描かれており、後者はアルトゥール・シュニッツラー作の後者は、宗教を表に出すわけではないが、深い人間洞察に満ちている。
 このように、宗教だ宗教だと出してくるような作品を集めているという本でもないのだ。最終的にいわゆる聖人伝としてキリスト教の伝説で結ばれる『聖ジュリアン伝』(ギュスターヴ・フローベール)についても、そこへ至るまでは、ただの人間ドラマとして十分味わうことのできる作品である。宗教文学が、宣伝っぽくて嫌だとお思いの方も、決して不快な思いはなさらないだろう。
 それにしても、ナサニエル・ホーソンの『緋文字』がもつピューリタニズムには、ほんの150年前のこととは思えないほどの昔日感を覚えてしまう。若いときにこの本に触れたときの感動は、私の中で決して小さくはない意味をもっている。




Takapan
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