本

『世界 説教・説教学事典』

ホンとの本

『世界 説教・説教学事典』
W.H.ウィリモン・R.リシャー編/加藤常昭・深田未来生日本語版監修
加藤常昭責任監訳
日本基督教団出版局
\15500+
1999.2.

 もちろん中古で購入。しかしこれのどこが、中古本の評価で「良い」程度なのであろうか。良すぎるのである。中身は新品同然である。よく見ると、函の一部が少しだけめくれている。だがそれが何であろう。価格は、元の数分の一であった。
 以前の教会の棚にあるのを見て、欲しく思った。しかし価格的にも手が届かなかった。いま掘り出し物を見つけた。憧れの本であった。それを入手したのが2021年の秋。9月5日から読み始めて、2022年の2月13日に読み終えた。全部読んだのだ。一日平均3.4頁を越えるから、この大型で二段組みの事典としては、かなり頑張ったものと振り返ることができる。
 そう、これは調べる事典ではない。読む事典だ。本来アルファベット順なのだろうが、邦訳であるため、五十音順に並べられている。もちろん人物は、ラストネームが見出しとなる。従って、順に読んでいくと、内容的にはランダムに並んでいるように感じるが、構わない。毎晩項目一つか二つずつくらい読むのが心地よかった。私の手に入った本である以上、黄色いマーカーとフィルム附箋に見事に飾られることとなる。もう古書店に売ることはできない。
 そういえば、序文にもこの「読む」ことが盛んにアピールされていた。「よい辞典、事典は楽しい読み物です」と始まり、この事典が広く用いられることを願い、「読んでいただきたい」と念を押されていた。それどころか、「キリスト者でない方たちにさえも興味深い読み物になると思っています」とまで言う。私も、そう思う。
 ところで確かに、読んだ時点からすると、決して新しい本ではない。だが、20年ほどで教会の説教が格段に進歩するようなこともない。しかも日本の教会の説教は、アメリカなどに比べると、半世紀は遅れていると見たほうがよい。そのため、むしろこんなことやっているのか、と驚かさせるほどである。もはやテレビ伝道などは古典であるが、日本ではそんな発想も技術もないし、予算もない。それが信仰や社会に与えた影響も考察されているが、日本には殆どその可能性がない。
 そう思っていた。が、このコロナ禍において、リモート配信というものが始まり、認識を改めた。会堂に立ち寄る、あるいは誘うということが無理難題となるに至り、ネット配信は教会の死活問題となる空気さえ漂う。このとき、映像の良し悪しは、歴然とした力の差となっていく可能性があるのだ。プロ級にサービスをしろというのではない。ただ、恥ずかしくない程度の知識は必要だろうというのだ。
 昔の名説教者について知るところも多かった。そうでなければ知ることのない人に出会えたようで、楽しかった。それぞれの生涯や考え方、業績などが一読でコンパクトに分かる。いや、分かるなどというのはおこがましいことだが、どこかで名前だけ聞いたことがある、という程度の人が、急に身近に感じられてくるのだ。ではその人の本は入手可能だろうか、と一旦調べてみることになる。
 人物や理論などもあるが、「譬え」や「レトリック」などの、基礎的な分類や紹介が分かりやすく揃っているのもありがたい。肝腎の「説教の歴史」は、かなり長い頁を費やして語られていたのもあり、本書の題からしても、中核に位置するものと見ることができるかもしれない。さすがにここは一日では読み通せなかった。
 カトリックのいまについては、この編集者たちでは配慮と知識が薄いのは仕方がないが、それでもある程度は教えてくれる。カトリック教界では、この半世紀余りで変化が大きく見られたが、説教という考え方が長らくプロテスタントとは異なるものだった。ただ、古代の教父や学者については、説教という観点からが中心ではあるが、よく言及されており、興味深く読むことができた。
 あくまでも「説教」が主役である。だが、礼拝において説教がもしも神の言葉だという信仰をもって聴くべきものであるとするなら、その神の言葉を語る者のこと、そして説教とは何かということについて、考える機会をもつことはよいことだ。語る方も、そういう会衆に囲まれるならば緊張するだろう。聖書の講演会でもしていればよいのだ、という程度の話しかできない者を駆逐することができるかもしれない。教会は、もっと説教に厳しく当たらなければならない。教会が生きるも死ぬるも、説教にかかっているのだ。
 但し、それではもう蘇生できないほどに、教会はもう日本では特に瀕死であるのかもしれない。コロナ禍があろうがなかろうが、危機的状況であると私は見る。だからこそ、説教で信徒を生かすことが待望されているのである。「説教」について、もっともっと真摯に考え、語り合わなければならないのではないだろうか。




Takapan
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