本

『世界の宗教がわかる本』

ホンとの本

『世界の宗教がわかる本』
ひささちや
PHP研究所
\1,600
2003.4

 宗教入門書にかけては当代随一の売れっ子作家。仏教評論家でありながら、主な世界の宗教に通じ、それらをわかりやすく著述することで、人気を博している作家である。この本も、キリスト教・ユダヤ教・イスラム教・儒教や神道に限られてはいるが、広く宗教とは何かを比較して考えてみたい人には、恰好の書となっている。
 惜しむらくは、やはり仏教の専門家であるがゆえに、キリスト教についても特定の立場の視点に偏っており、それもかなり断言調に記すので、フェアではないと思わるが、逆にキリスト教学者が仏教について述べた場合は、それ以上に無知のままに記すことになりかねないので、やはり博識の著者としてはこれはこれでいいのだろう、と言わざるを得ない。仏教の立場からであるために、仏教につねに好意的であるというわけでもなく、葬式仏教という形に対しては批判的であり、釈迦の悟りに少しでも戻らなければということを、仏教界全体に訴えかけているようにも聞こえる。その点では、宗教が現代にどのように必要であるかを真面目に論じているともいえよう。
 著者が人気を博す理由の一つには、宗教的な思想を、分かりやすいたとえで述べてしまう点がある。たしかに面白い。口が上手いというのは事実だし、だからこそ人気があるのだろうと思う。上手すぎて、そこまで言ってよいのか疑問になることもあるし、そう平たく決めつけてしまってよいのかとも感じる。この本で宗教が分かったような気になってしまうのも問題だが、宗教への一つの入り口として理解するならば、たしかに便利な書ではあることだろう。
 キリスト教については、予定説という特殊な立場がキリスト教のすべてのように描かれたり、神学についても特定の神観だけを述べて神の救いとはこういうものだと選択肢のうちの一つだけを正解としたり、問題もある。新約聖書には「天国」は一度しか現れない、などと明らかに虚偽を名言していることもあるので、この著者の断言調には注意を要するべきであろう。




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