本

『世界はなぜ仲良くできないの?』

ホンとの本

『世界はなぜ仲良くできないの?』
竹中千春
阪急コミュニケーションズ
\1680
2004.6

 実に素朴な疑問である。素朴であるがゆえに、幼稚にすら聞こえる。だが待てよ。幼稚なこの問いは、大人の世界には通用しないものであるとか、そんなこと言っても現実は違うんだよとしたり顔で言い放っておいて、それでよいのかどうか、立ち止まってみたらどうだろう。
 哲学の研究の際にも、よく言われた。難しそうな言葉を連ねていると恰好いいように見えるかもしれないが、その方が実は簡単なのだ、と。中身のない議論ほど、難解な用語や言い回しを多用し、重要なことを言ったように見せかけるものである。子どもにも分かるような易しい言い回しから問いが出され、答えることができたら、それは真に哲学に値するだろう――。
 中高生にも読めるかのような書き方がしてある本である。しかし、これだけのことを書くためには、実に膨大な資料と知識とがなければできないはずです。私は、この本の内容もさることながら、これだけのものを、いわば誰にでも読むことができるような形で著したということに、尊敬を払うものである。
 本書は「暴力の連鎖を解くために」というサブタイトルが付いている。様々な事例を丁寧にレポートしつつ、暴力がどのような原理から発生し、また展開していくかを冷静に分析する。この冷静さがまず、いい。
 その暴力は、歴史からも解読される。そして、今それによって苦しめられている人々の顔をも表に出して描いていく。
 大国アメリカが、「正しい戦争」と称して暴力の連鎖を続けていく様も、はっきりと示される。
 このようにして、ただ現状をぼやくだけなら、多くの人ができるだろう。だが本書は、「暴力を止める方法」と題した章を用意した。たとえ理想論だなどと影口を叩かれようが、著者は、ガンディーの姿を一つの模範としている。それは論理的には誤りである可能性も少なくないが、言い回しが下手だからと言って、内容が狂うわけではない。ガンディーの非暴力非服従の背景をも十分に説明を尽くして、それか今後拓いていく世界を気にしていたいと願う。
 インドの暴力の数々は、東洋思想は寛容だから戦争をしないなどと言う、自説に都合のよいデマとも言うべき意見を流そうとするグループや新聞社の認識すべきことである。だが確かに、そこから非暴力の運動も生まれた。
 繰り返すが、流暢で一方的な説明に気を遣いつつ拍手でそれを通すよりは、「ちょっと待ってください」と素朴な疑問をぶつけることができたほうがいい。
 地味な本であるだろうが、終始充実した内容を保っていた。市民運動の学習会のテキストなどに相応しいのかもしれない。困難な内容ではあるが易しい言葉による問いが生まれたことを、私はまた意識することができた。




Takapan
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