本

『世界中が雨だったら』

ホンとの本

『世界中が雨だったら』
市川拓司
新潮社
\1365
2005.6

「いま、会いにゆきます」は大変な人気となった。不思議な現象を描く視点が受けいられたのだろうか。
 この本、未成年にはお勧めしないことにする。自分で自分に責任がとれるような健全な理性をお持ちでなければ、肉体年齢が何歳であろうと、お読みにならないほうがいい。
 情念とその行為の描写はもちろんのこと、犯罪の引き金ともなりかねない物語である。
 だが、私はわくわくして読んだ。ここに収められた三つの小説を。
 それらは、おぞましい話だった。死体を処理するシーンは妙なリアリティがあった。とはいえ、殆どの人はそうした経験を実際にもたない。テレビや映画でのそれは、見てそれだけのものかというほとのものでしかない。放送コードというものもある。
 だが小説の与える想像力には、コードというものはない。とことん醜いものを、さらりと活字にして目の前に見せびらかせ、感じる者はどこまでも深く広い情景を感知する。
 まるで、読んでいる私までもが、この犯罪に加担しているような気持ちになる。
 それほど面白いとは思わない人も当然いるはずだ。むしろ、その方が多いのではないかと思う。だが、私は吸い込まれていった。なぜだろう――一つの答えは、私自身がこのような犯罪を犯すかもしれないという意識があったからである。私も、こんなことをしてみたかった。したかもしれなかった。したいような思いに襲われたことが、確かにある。その辺りが、自分のことのようにこれらの物語を錯覚させた原因と言えるかもしれない。
 どぎつい描写を幾分外したものとして、表題の『世界中が雨だったら』なら、まだどこか救いがあり、幾分かの健全さを宿したものとして、お勧めしてもよいだろうか。なかなか消え去らないいじめという問題にも、何か糸口を与えてくれそうな可能性を覚えたという意味でも……。




Takapan
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