本

『世界が若かったころ』

ホンとの本

『世界が若かったころ』
ジャック・ロンドン
千葉茂樹訳・ヨシタケシンスケ絵/理論社
\1300+
2017.1.

 ジャック・ロンドンとくれば、やはり『野性の呼び声』という作品が頭に浮かぶ。高校の英語で、これを読んでいくという時があったが、英語力がないせいもあって、さっぱり分からなかった。『動物農場』や『イーノック・アーデン』など、名作には違いないが、文学に疎くて英語ができない私にとっては苦痛だった。
 そのロンドンの作品は、入手しやすい邦訳に恵まれていないらしい。もう何度もご紹介してきた「ショートセレクション」の一冊。ここには、よく知られた短篇もあるが、ずいぶん久しぶりに邦訳が出たというものもあるそうだ。日本に寄港したこともあるというロンドンも、日本でこうして読まれていることは、もし知る機会があればうれしく思うのではないか。
 ロンドン自身、十代までは家族に恵まれず、またよくぞこんな人が作家になれたものだと驚くほどに、生きるか死ぬかのような激しい生活を強いられている。やばい人生を送っているわけだ。中には、アラスカで金を掘るために過ごしたこともあったようだが、死にかかって帰宅する。寒すぎたのだ。
 そう、この短編集を、私が冬に読んだのがよくなかった。寒いのだ。多くの話が、寒い。凍傷で死にかける話もあり、そのときにたき火をつくるシーンがやけにリアリティがあると感じていたら、後からそのような作者のことを知って、納得したものだ。
 本書は七つの短篇からできている。「荒野の旅人」「世界が若かったころ」「キーシュの物語」「たき火」「王に捧げる鼻」「マーカス・オブライエンの行方」そして「命の掟」である。なかなかハードな内容の印象もあるが、「王に献げる鼻」のような、とぼけた作品もある。これは朝鮮の高麗を舞台としている。決して朝鮮が舞台でなくても成り立つような話ではあるが、アジアに来たことのあるロンドンが、その空気を描きたかったのだろうか。
 本の表題になっている「世界が若かったころ」が、これまた不思議な話である。ビジネスで成功した男には、ファンタジー的な背景があったというものだ。なにせ、古代人がその中にいて、野蛮というか、もう豪快で激しい行動をとるのだ。これがヨシタケシンスケの絵として、表紙をつくっている。ちょっと怖い。
 子どもにも楽しく読めそうなのは、たとえば「キーシュの物語」であろうか。生意気だとして村から弾かれた少年が、村人たちのために獲物を手に入れる。そんなばかなことがあるものか、と村人たちの中には、あれは悪霊のせいだ、と噂をする者がいて、消してしまおうと思う者もあったようだ。そう、人は自分で説明できない事実を知ると、悪霊のせいだとして、その人を排除しようとすることがある。最後に、その謎が解かれるので、もちろんここで明かすことはしないが、お楽しみに。これは読みやすい。
 特定のジャンルに据えられることをまるで拒むかのように、ロンドンは様々なストーリーを提供する。きっと、もっと魅力的な作品も多数あるのだろうが、それはまた別の機会に探ればよいだろう。ちょっとハラハラしてしまうのもあるが、文字の大きさから全体の分量、そしてふりがなの適切さからしても、小学上級生で楽しめるであろうというのが、このショートセレクションの狙いであろう。図書館で次々と入荷しているのが楽しみである。
 こうして作家の作品に直に触れて、そこから、その作家や関連作品へと、手に取る本を増やしていけばよい。本を読まないことと、言葉数に乏しい子どもたちや若い人たちに、そのようなチャンスを与えることに貢献する出版社に、拍手を贈りたい。




Takapan
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