本

『西洋古典名言名句集』

ホンとの本

『西洋古典名言名句集』
西洋古典叢書編集部編
京都大学学術出版会
\2400+
2023.12.

 1997年から、年に6冊ほどのペースで刊行されている「西洋古典叢書」。頭が下がる。ギリシア語・ラテン語原典からの新たな翻訳に、訳註や解説を加え、一般読者にも十分親しめるように配慮されている。
 本書はその中から、名言を集めた、とびきりの入門書だと言えるだろうか。古典叢書の目指す旅への一里塚として、本書はつくられている。だが、ここには有名な本から取り出すという、安易な方法はとられていない。古典叢書160冊の刊行を記念して、その中から「隠れた」名言名句を集めたという。この姿勢もありがたい。なにも有名な古典のみならず、古代の人々が知っていた、あるいは考えていたその知恵の数々に、より広い範囲からアプローチできるのである。
 いくらプラトンをも読んでみても、ホメロスが好きでも、出会うことのない様々な知恵の言葉を、ここに見る。
 本書の制作そのものには、他の本ほどの苦労はいらなかったかもしれないが、読者としてはまことにありがたいと思う。多くの本のエッセンスに触れることができるからである。
 そこで、またさすが京都大学であるが、原文も添えてある、というのが実にいい。日本語はもちろんありがたい。だが、その原文があれば、心得のある人は確認することができる。ちょっとした日本語の訳に、何の語が使われていたのか、その場で参照できるというのは、実は本当にありがたいことなのだ。同じ「心」と訳してあったとしても、ギリシア語だけで行くとおりかある。それぞれにニュアンスが異なるので、確認できるとよく分かるのだ。
 また、必要に応じて、その言葉がどういう場面で発されたのか、解説が加えられることがある。ただのアフォリズムだと、何を背景にしてそう言っているのか知れないし、そうなると意味を勘違いするかもしれないであろう。またねその後がその後の文化の中でどのような意味で大切にされたのか、あるいは後の思想に影響を与えたのか、そうした点でも一言添えられているだけで、その重要性を感じることができる。
 もちろん、これらがすべて引用であるということは、もしその前後に興味をもつなどのことがあったら、どの本の何頁を開けばよいのか、全部案内されている。
 時折、興味深い「コラム」がある。たとえばブタやヒツジ、ニワトリなどはよく食されていたが、ウシは少なかったとか、ウナギの特産があったり、トマトがなかったりとか、ちょつとしたことが書かれてあるのが楽しい。
 並べられているのは、日本語のアイウエオ順の見出しにより、それをテーマにした言葉、ということで揃えられている。日本人にはこれで十分であろう。主な幾つかの見出しには、その原語についての説明や、背景などが、少しではあるが添えられており、これも教養のためには十分である。独裁制が、民主制以外からは生まれてこない、と言ったプラトンの言葉もその中にある。知らなかった人にとっては、衝撃であるかもしれない。民主主義信仰の強い現代にあって、釘を刺すに足る言明であろう。もちろん、プラトンがその先に考えていた国家は、とても現代では考えられないような奇想天外さを有つものではあったのだが。
 確かに、古典というものは、その1冊全体に触れ、息吹をも感じることが大切であろう。だが、そのすべてにそのように対することは、到底できない。本書の意義は小さくない。願わくば、これがもっと広く知られ、多くの人に教養がもたらされ、思索の礎になることができるように。もっと宣伝してあげたい本である。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります