本

『聖なるものを訪ねて』

ホンとの本

『聖なるものを訪ねて』
古井由吉
集英社
\2415
2005.1

 名の立つ文学者の短い文章を集めたもの。雑誌連載されていたものも多い。
 失礼だが、全部読むことができなかった。最初の旅や仕事についての多くのエッセイも、味わい深いものだったが、返却期限が迫ってきたこともあり、終わりの「聖なるもの」についての方に急ぎ移ることにした。
 ただ、124頁の『「聖なるもの」の行方』は、実に読み応えのあるものだった。
 筆者は、いわゆる信徒ではないが、キリスト教文化に畏敬の念をもっている。いや、何かその背後にある、目に見えないものに目を向けていると言ったほうがよいのかもしれない。それをさしあたり「聖なるもの」と読んでいるのではないか。
 どうであれ、確かな眼差しを以て見つめ、的確に言葉に置き換えているということは、間違いない。フェアな姿勢で、信仰や世界の姿を捉えている文章は、見事である。
 そして、本の終わりの方を飾る、聖画の数々を探訪する文章がまた美しい。人間の魂をここまで覗き、表現することができるものかと感動する。
 信じています、という私たちの言葉が、やけに軽々しく思えてならないほど、その思索は真実で心の襞に食い込んでいく力がある。十字架の絵を見つめながら考えを深めていくこの一連の文章を、味わう価値はきっとある。




Takapan
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