本

『絵でわかる生物の不思議』

ホンとの本

『絵でわかる生物の不思議』
太田次郎監修
講談社サイエンティフィク
\2,000
2003.11

 高校生あたりが生物学を学ぶのに相応しい――と、同僚の生物に詳しい教師が一目見て語った。
 編集方針も、はたしてその通りである。さらに大学生でも、一般にも、読まれたいものだということらしい。
 ともすれば、計算や複雑な化学式が飛び交う、生物の教科書が通例である。かといって、あまりに大衆に媚びた、おもしろなんとか方式では、せいぜいクイズに役立つほかはない。生物学は、環境を考えるのみならず、そもそも自分の健康や命について、深い理解をもたらすはずのものである。複雑な数式や化学式はともかくとして、その仕組みや原理を理解しておくことは、生きるために必要な知恵だと言ってよい。
 先の飢餓対策機構の本でもそう主張されていたが、金銭を援助すればそれで助けたことになるというわけではない。金銭は、えてして権力者のもとに留まり、真に困っている人々のもとへ届かないものである。一人一人が意欲をもって働き、その働きが実るような社会の仕組みを調えることが大切であることを、現場の人々の意見から強く感じる。そのためには、当事者の教養や理解が必要なのだ。ちょっとした保健衛生の知識が、どれほどの子どもたちの命を救うか知れない、という。正しい衛生知識なしに、子どもたちを見殺しにしてしまっているという事態が不幸なのだ。
 だが、文明国と自称する私たちは、それを無知だと見下せるだろうか。私たちは、健康に悪いということをなんとなく聞いていながら、飽食をやめない。止められない。食料品を多量に捨てる贅沢をしておきながら、他方でダイエットにまた金を注ぎ込んでいる。健康に悪いのに、歩く生活を放棄しているし、タバコをすぱすぱ吸う。いったいこれが、生きるための知恵や教養を得ていると言えるのだろうか。
 構造は、不幸な飢餓地域と何も変わらない、と私は思う。いや、彼らの食糧や環境を食いつぶしているだけに、私たちの罪はより大きい。
 生物学については、もっと広く知られるべきなのだ。
 遺伝子から、からだの構造について動物と植物の違いを明確にしていく。この本は、2頁単位で、しかも右頁は大部分はイラストによる説明となるなど、制約はある反面、大変読みやすい形になっている。病気、暮らし、進化など、自分自身のあり方への関わりにもどんどん迫っていく。
 糖尿病になりやすい日本人の体質の謎も、ガンの最大の原因が食生活にあることも、麻薬がなぜ人間をぼろぼろにしていくのかも、こんなに明確に理屈で分からせてくれる本は珍しい。
 この道に苦手な私も、楽しく読めた。こんな本から、さらに専門的なものに興味をもつ若い人たちが増えてほしい。いや、十分アダルトな人々もだ。




Takapan
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