本

『ヨーロッパ聖母マリアの旅』

ホンとの本

『ヨーロッパ聖母マリアの旅』
若月伸一
東京書籍
\1890
2004.8

 いわゆる聖母マリアについて、私は語ったことがない。それをどうとか議論する対象ではないと思っているからだが、実際、複雑な感情に襲われる。
 私個人は、聖母マリアを信仰の対象においてはいない。プロテスタントは基本的にそうである。だから、中には、カトリックの聖母マリア信仰は悪魔的だと断ずる牧師や神学者もいる。その考えも理解できる。と同時に、カトリックの信徒がマリアの前にぬかずいている姿を見下すようなこともしたくない、と感じている。
 曖昧な対処で、生ぬるいのかもしれないが、私は、マリア像の前に涙を流す人を傍から見てどうとか言う立場にはないと考えている。そして、私自身はそうしないということだけだ。
 ヨーロッパの人々は多く、このマリアを尊敬あるいは信仰してきた歴史をもつ。各地にマリアの名を冠する教会や学校を多くもち、それは日本においても例外ではない。カトリックが布教していくところでは、必ずマリアの名前がどこかで入ってくるものである。
 著者は、フランス・イタリア・ドイツというふうに長年ヨーロッパに住み、キリスト教美術史や考古学を学び、伝えてきた。収められている写真もすべて著者の手によるものであり、これがまた、美しい。
 信仰云々はさておいても、ここに多数紹介されるマリア像やその教会、町の人々などの姿は、ただ写真としても、美術の対象として見ても、十分満足のいくものがある。そして、頁の半分ほどを飾る文章は、そのまま歴史や美術のテキストともなりうるし、紀行文としても味わいのあるものとなっている。そこに実際に足を運び、すばらしいと思う気持ちをもつ人でなければ書けない文章である。
 一週間やそこらの旅行では見られない、感じられないものが、たっぷりに紹介されている。文章もさることながら、写真だけ眺めていても、美術の荘厳さが迫ってくるように感じられてならない。




Takapan
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