本

『サンタクロースの大旅行』

ホンとの本

『サンタクロースの大旅行』
葛野浩昭
岩波新書591
\693
1998.11

 クリスマスが近づくとき、今年は子どもたちにどんなことを伝えようか、と考えてみる。あるいは、大人の間でも、教会では祝会というのがあるので、そのときの出し物をどうしようか、というふうなことを考えてみたりもするのだ。
 サンタクロースは、教会ではマイナーである。まずめったに話題に上らない。子どもたちに対して、「今日はサンタクロースの誕生日なんかじゃないんだよ」と前振りをして、イエスの話を持ち出すか、あるいは「明日サンタさんがくるといいね」程度であっさり言い放って終わりというのが通例ではないかと思う。
 サンタクロースについては、比較的よく広まっている説がある。ちょっと有名な本で言及されるとか、芸能人がテレビで言ったとかすると、それが唯一の真実であるかのようにはびこる性質があるが、サンタクロースの説の場合は、ひどく信頼のおけないものばかりというわけではないようだ。しかし、私もまた、赤と白の肥った白髭のおじいちゃんのサンタ姿は、コカコーラの宣伝で生まれた、とさえ思っていた。どうも違うのだ。古いクリスマス・カードを資料として提供するこの著者は、その辺りの歴史をきっちりと紹介してくれる。ああ、またためになった。
 冬のおじいさんについては、聖ニクラウスのみならず、欧州各地域で元来様々な伝説があったという。それがサンタクロースに集約されていくような感があるのだが、それがついには、アメリカの象徴となっていく様子が、この小さな新書の中に、大きなスケールで描かれている。
 また、日本人のクリスマス意識などについての言及も面白い。漫画サザエさんを素材としてクリスマスの描かれた方を探るなど、ユニークで楽しい。案外古くから猛烈な盛り上がりを見せて広まっていたのだということが分かり、興味深くもあった。
 それから、北欧フィンランドの、サンタクロース村について。ここには、知らないことがたくさんあった。フィンランドという国の歴史と、それが現在の世界の平和に果たしている意義とが重なってくると、どうしてそこがサンタクロースの村であるべきなのかが分かってくる。それは、勝手に国境を引いて決めたような、偏狭なナショナリズムの中で論じられるような小さなものではないのだ。子どもたちのみならず、大人すべての人々の眼差しを集めるべき、平和の祈りと歩みであるはずのことであるのだ。
 信仰という題材を期待することはできないが、実にダイナミックに、壮大なスケールで、まさにタイトルの「大旅行」に相応しい読後感が残る。読み応えのある一冊であった。




Takapan
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