本

『科学の国のアリス』

ホンとの本

『科学の国のアリス』
福江純
大和書房
\1680
2005.6

 科学をなんとか分かりやすく伝えたい。科学に詳しい心ある人々は、しばしばそのように口にする。だが、どうすればよいというマニュアルがあるわけではない。そしてまた、いろいろなやり方があるのだろうと思う。
 この著者は、不思議の国のアリスをモチーフにして、まとめ上げられた。
 結論から言って、各章の扉に用いられたアリスのストーリーは効果的であり、ところどころイラストに登場する女の子の姿は魅力的ではあるけれども、その他にアリスである必然性や、アリスだからこそ説明できた、というところは見当たらない。
 それは、出版社の担当者がモチーフとしてアリスを与えてから初めて、著者がアリスの本を実際に読んだ、という辺りの告白からしても、理解できる。
 しかし、だからこの本の説明に魅力がない、などと言うつもりはさらさらない。むしろ、私がこんなにこの手の本で最後まで楽しくついて行けたくらいだから、見事に説明がなされていたのだと驚く。
 内容的には決して生やさしくはない。私が理解できたのだという意味でもない。だが、基本的な概念の説明のために、労がなされていることが、よく伝わってくるのだ。それは、著者自身の筆運び、あるいは説明への配慮というものが、優れているからなのだろう。身近な現象の解き明かしが楽しいのと、その原理がぴたっと合っている点が、爽快なのだ。
 とはいえ、少なくとも高校程度の理科の授業を、それなりに勉強したなあ、というくらいの経験がないと、なかなか読めるものではないかもしれない。はっきりと書かれているわけではないが、推測するに、大人を相手に書いてあるのだろうと理解したい。これをもう一歩掘り下げて、高校生、できれば中学生にも読めるものにしていくと、読者層が増え、また科学的思考の普及という、大きな目的に近づくことになるのだろうと思うが、それはきっと、著者の次の眼差しであるのだろう。専門の天文学のことでもいい、そうした次のステップにまた期待したいと思う。




Takapan
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