本

『算数脳がグンと伸びるパズル』

ホンとの本

『算数脳がグンと伸びるパズル』KADOKAWA
\1250+
2018.12.

 タイトルに先立って「頭のいい小学生が解いている」とある誘いが目につく。これはあながち嘘ではないと思う。パズル教室もあり、その内容を知っている。子どもたちがひたすらテキストのパズルを解いたり、対戦型ゲームをしたりするのだが、指導する側は一切教えてはならない。問題の意味が分からないときだけ、ルールは説明するが、ヒントめいたものも言わない。すべて自力で考えさせる。このねばり強さは、パズルならではかもしれない。そう、すぐに答えを教えて、と人を頼らない子を育てているのだ。
 元来私はそういうタイプだった。いまでもそうだ。何かしらクイズがあっても、考えて分かるものであるということなら。答えを教えてほしくない。このタイプが、多分に算数に向いている。自分で解けば自分の頭の中に思考の溝が刻まれる。苦労して解いたとしても、その苦労の道筋が記録されるから、次にその発想が役立つということになる。問題が現れたときに、できた溝に水が流れ、あっという間に解決へと到達するのだ。
 頭のいい、という言葉の定義は不明だが、まあ世間で言われているような意味だとすると、確かにこうしたパズルに挑む子は頭がよくなのだろうと思う。表現が誤解を招かなければ、これは悪い招きではないだろう。
 こうした試みを長いことやっている人がまとめあげたパズル集である。理屈はともかく、取り組んでみたらいい。大人の皆さん、どうだろうか。
 私は職業柄、そして好みからしても、ここにあるパズルは面白いと感じる。小学生に解けるように設定してあるから、簡単なものだ。しかし、こうした思考訓練に慣れていない人にとっては、頭を抱えるものもあるだろうと思う。それでいて、無理はないと思う。
 実のところ、私が創作して子どもたちに余興として提供する問題と殆ど同じものもここにはあるし、幾多触れたか知れないこの手の本のどこかで見たものも多い。すべてが全くのオリジナルというわけではないが、だからこそ、この本は価値がある。つまり、有名な問題が網羅されているということだ。そのうえ、オリジナリティに溢れたものも当然ある。56タイプの問題(ひとつのタイプに複数並んでいるものもあるから問題数自体は多い)が集められてこの価格は、安いと感じる。
 ところで、「はじめに」で、親はどうでもいいから子どもに与えよと書いてあるが、たぶん子どもがこれで成長するようなケースだと、親もきっとこの本に夢中になる。親がパズルに無関心で、子どもだけが喜んで挑み算数ができるようになる、というのは少数派であるだろうと思う。つまり、やる気のない親だと、子どももすぐに答えを見て、へぇで終わってしまうのがオチだということだ。子どもの中にはストイックに、ほんとうに自力で答えを出すまで答えを決して見ないタイプの子がいる。もちろんその逆もいる。それは、ふだんの親との生活の中で培った性質に基づくだろうと思われるのだ。親がすぐに答えを見るタイプだと、子どももきっとそうする。遺伝的にそうなのかどうかは知らないが、子どもは親をちゃんと見ているから、親がするように子どももするよう刷り込まれてしまっているのだ。だから、本気で子どもの頭脳をこの手のもので育てたいと思うならば、親がこの本に夢中になるのがいい。大人にとり、無理のないものが多いから、私のように慣れた者とは違って全問するするとは解けないかもしれないが、解けるものは必ずあるし、難しいと感じるものも当然あるだろう。それでいい。子どもはその様子を見ている。そのようにするものだ、と理解する。そしてこの世界に適切に入ることができたら、思考が訓練されることは間違いない。トレーニングをするのだから、必ず鍛えられる。
 問題頁下にあるヒントは読まないで挑むことをお勧めするが、子どもにとっては、制限時間(上に書いてある)を越えて苦しんでいたら、ヒントは見てもよいだろう。とくに慣れないうちは、そうしないとやっていけないかもしれない。だから、本書をさっさとやってしまうようなことを求めず、一年間くらいかけて少しずつやってみたらよいと思う。パズル教室や塾でも、そのくらいのペースなのだ。慌てて次々よく分からないままにせず、何日かかけて一問を気にしてあれこれ考えてみるくらいでちょうどよい。
 私がこれほどに言うのだから、これは良い本だ。内容的に優れていると思う。なかなか良いパズルものが発行されたと私は喜んでいる。




Takapan
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